夜になったらこっちを見ている人形
これは七つ下の弟が、やっとまともな会話が出来るようになった幼い頃のことです。
当時、母と弟が寝る部屋には、亡くなった祖母の作った日本人形が男女一体ずつ飾ってありました。
ある日、母と弟、そして病気で学校を休んでいた俺の三人で、お昼のオカルト番組『あなたの知らない世界』を見ていました。
その回の物語のあらすじは、次のような感じでした。
おいでおいで
/ ここから あらすじ /
娘がゴミ捨て場で人形を拾ってきたところ、家族に反対され、元のゴミ捨て場に戻しに行った。
しかし、いつの間にか人形が家に戻って来ていた。
気味悪く思った娘は、さらに遠い所へ人形を捨てに行った。
その後、一家の主人が行方不明になり、死体で発見された。
その遺留品には、なんとその人形が含まれていた。
/ あらすじ ここまで /
退屈だった俺はその再現ドラマを見ながら、「うちにもあんな人形あるよね~」なんて弟を怖がらせようとからかっていました。
すると、まだ三歳にも満たない弟がケロリとした顔で、「うちの女の子の方のお人形も、夜になったらたまに首だけこっち向けて見てる」と主張するのです。
まだそんな冗談を言えるような年齢ではないので、さっきの再現ドラマと現実がごっちゃになっちゃったのかなと思って聞いていましたが、念の為に「今度もし人形が動いているところを見たら教えるように」と指令しておきました。
そんなことも忘れた頃、弟が「お人形が動いたよ」と言い出しました。
詳しく話を聞いてみると、母と並んで寝ていたところ、足元の方の壁の真ん中辺りに人形がガラスケースから出てきており、「おいでおいで」をしていたそうです。
そして、その人形の立つ壁の背後には、なぜか森が広がっていたと。
弟によると、「とっても楽しそうな気がしたので行こうかと思ったけれど、夜はちゃんと寝ていないとママに怒られそうなので付いて行くのをやめた」とのことでした。
『人形の後ろに森』というのは、幼い弟の作り話としては出来すぎなのが少し怖かったのですが、現在27歳の弟は、そんなことはすっかり忘れてしまっているようです。
はたして弟は、兄を怖がらせる為に怪談を創作するほど賢いウソつき二歳児だったのか、それとも・・・。
いずれにせよ、怖いです。
その人形は、まだ実家にあります。
(終)