今の私は一体どこの誰なんだろう
これは、母に「夏だし何か怖い話でもない?」と聞いてみた時の話。
母は「うーん」と少し考えた後で、思い出したかのように「怖い話というか、不思議な話ならあるよ」と言ったので、どんな話?と聞いてみた。
それにしても、まさか私の話とは思わなかったから少し驚いた。
かわってあげたの
3人兄弟の末っ子長女だった私は、実によく泣く子供だった。
幼稚園の頃も、小学校に上がってからも、兄がイジメたと言っては泣き、お菓子が少ないと言っては泣き、誰も構ってくれないと言っては泣いていた。
そんな風だったからか、私が泣いたからといっても誰も困ったり焦ったりはしなかった。
それがまた私が泣くことに拍車をかけていたのだけれど・・・。
夏休みのある日のこと、母はパートから帰って来ると、二人の兄は近所の友達とゲームをして遊んでいて、私が別の部屋で一人で遊んでいるのを見つけたのだそう。
いつもならこんな時は、兄たちが仲間に入れてくれないとメソメソているのに、その日に限ってたった一人で楽しそうに遊んでいたらしい。
「今日は泣いてないね?」
母は思わずそう尋ねると、私は笑って頷いた後にこう言ったそうだ。
「ないてたから、かわってあげたの」
それからの私は、まるで別人になったかのように泣かなくなったという。
実は私は、小学校低学年以前のことは断片的にしか覚えていない。
それも、兄や母から聞いたエピソードばかり。
もし、あの時に「かわってあげた」のだとしたら、元の私は一体どこに行ってしまったんだろう?
そして、今の私は一体どこの誰なんだろう?と、ふと思う。
(終)