ある愛刀家が一振りの刀を購入してから

刀

 

これは、日本刀にまつわる話。

 

ある愛刀家が一振りの刀を購入した。

 

立派な突兵拵(とっぺいこしらえ)が付いていて、この柄が肥後拵のように茶色に染めてあり、金具も良い物で、拵えも気に入って購入したそうだ。

 

ところがこの刀が家にきてから、持ち主や家人が病気になったり、火事が起きたり、詐欺にあったりと、ロクでもないことばかりが起こる。

 

刀を研ぎに出して家から離れると、そういうことがピタリと止まる。

 

そして研ぎあがって帰ってくると、また家庭で不和が起こったり、事故にあったりと、不幸が立て続けに起こる。

 

ひょっとしてこの刀に何か・・・と思った愛刀家が、別の刀屋にその刀を持ち込んで売ってしまおうとした。

 

すると刀屋が、しきりに拵えを捨てて白鞘にするように勧める。

 

こんな素晴らしい拵えなのにと問いただしてみたところ、刀屋は「私の見たところ、この刀の柄は血染めですよ。しかも、ムラから見て二回は血が染みています。お刀は良い物なので拵えを変えられた方が・・・」と言った。

 

突兵拵といえば、戊辰戦争などで幕府方などが好んで用いた拵えだし、柄が血に染まるということは、まず持ち主の血だと見てよい。

 

柄が染まるほどの出血なら、持ち主は死んだかもしれない。

 

それも二回も。

 

・・・と考えが至ったところで、刀を「代金は後でよい」と刀屋に押しつけるようにして店を出た。

 

その後、不幸はピタリと収まり平穏な生活に戻ったらしいが、今もその刀はどこかで売られているのかもしれない。

 

(終)

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