寺で預かられていた曰く付きの絵画
これは、ある絵にまつわる気味悪かった体験談。
秋口の頃だったか、俺の勤めている会社の社長の菩提寺が建物の一部を修復するとかで、俺も含めて若い社員が5人程と監督役の係長が一人、荷物の運搬を手伝いに行かされたことがあった。
本来は休日である土曜日に・・・。
ご本尊の裏にある位牌やらなんやらを丁寧に梱包して箱詰めしていたまでは良かったのだが、なんだか妙に気になる物があった。
憑いて行っちゃた
それは額縁入りの絵画だったが、あからさまに布を被せてある。
それも複数枚。
黙ってスルーしていれば良かったものの、どうしても気になった。
それで、住職の息子さんに聞いてみた。
「これ、絵ですか?なんでこんな風にしてあるんですか?」と。
すると息子さんはカラカラと笑いながら、「ああ、それはみんな『曰く付き』の絵です。だからうちで預かってるんですよ」と事も無げに言う。
「あー、ははは、そうですかー」と苦笑いする俺。
聞かなきゃよかったな・・・と少し後悔しながら作業に戻り、やがて夕暮れになった。
会社の大型ワゴン車2台分くらいのダンボール荷物を乗せたまま山道を下り、その途中にあった道の駅で食事をすることになった。
食事をしながら係長に、「そういやあの荷物、どこにおろすんですか?」と聞くと、「会社の倉庫だ」と言う。
やだなあ・・・位牌まみれの倉庫で在庫を調べるのは・・・なんだか怖いし・・・と思う俺。
そんなことを言っても仕方がないが。
会社に戻って倉庫の一角に荷物をおろし、お疲れ様という運びになった。
そしてその翌々日、月曜の夕方のこと。
うちで注文した資材が入荷したので、倉庫に運んでいた時だった。
位牌の入ったダンボール箱の一つのフタが開いている。
そればかりか、見覚えのある布の被った絵がそのダンボールに立てかけてある。
洒落にならんぞと思ったが、気になるなんて生易しいものでもないので、念のため確認してみることにした。
布をそっと捲って見てみると、それは女性の肖像画だった。
肩口から上がモナリザのような構図で描いてある絵。
ただ、寺で預かるだけのことはあるな・・・とも思った。
まるで人殺しのような目でこちらを睨み、唇の両端が吊り上っている。
十人に聞いたら十人が「気持ち悪い」と言うであろう表情。
描いた人の気が知れない、というレベルだ。
急いで倉庫から出て、係長に進言した。
「持って来たはずのない絵がありますよ?」と。
社内はちょっとした騒ぎになった。
すぐに運搬の手伝いに行った面子が倉庫に集められ、「これ、誰が持ち込んだんだ?」と質問する係長。
すると、隣の部署の新人が手を挙げる。
最早、彼以外の全員が「???」状態。
なぜなら、そんなものを運べなんて誰も指示していないからだ。
どうしてそんなことをしたのか。
新人「よく覚えてないんですけど、僕がダンボールに入れたような気がします」
係長「気がした、ってのはどういうことだ?」
新人「すみません。よく覚えてないんです」
係長「・・・」
俺「土曜日、ここに運んだ時は箱には封がしてあっただろ。じゃあ、それを開けたのは誰なんだ?」
新人「あ、それも僕です」
俺「なんで?あの寺から荷物の問い合わせでもあったの?」
新人「いえ。昨日ぶらっと会社に来て、この絵を見てたので・・・」
つまりその新人は、わざわざ気味悪い絵を運んで来たばかりか、日曜日に会社に来てその絵を眺めていたらしい。
休日で誰もいない会社の倉庫に一人きりで。
しかも彼は、自分がそういう行動を取ったのは覚えているのに、「なぜそんなことをしたのか?」がどうしても思い出せない、とのこと。
この時点で俺は鳥肌が立ち、係長も「これはヤバい」と判断したらしく、すぐに寺へ連絡した。
後で聞いたところ、電話の向こうで住職の息子さんがこんなことを言っていたらしい。
「ああ、憑いて行っちゃいましたか。その人を怒らないであげてください。悪いのはその絵ですから」
そして、誰もがその絵を寺に持って行くことを拒否した為、返却は運送屋に任せた。
泣く泣く再梱包したのはその新人だったが。
(終)