代替わりの年に長男もしくは長女が死ぬ
これは、うちの家系にまつわる気持ち悪い話。
うち(正確には母方の家)は某県の旧家だが、本家が二つある。
「ホンケ」と「ホンヤ」と言って使い分けているが、県の北部にいくつかある菅原道真の末裔の家だ。
詳しく書くと素性が割れるので控えるが、各家にはいくつか『伝説』がある。
・・・と言っても、家同士に親密な繋がりがあるわけではない。
呪い?迷信?
有名なのが『三穂太郎(さんぶたろう)』の伝説で、とにかく大きな人がいたらしい。
他にも、別の家には『敷地内で白ヘビを見ると幸福になる』という伝説がある。
よく分からないが、うちの家系には白ヘビに関する伝説は多いらしい。
そして、うちの家にも当然ながら伝説がある。
それは、『代替わりの年にその家の長男もしくは長女が死ぬ』という伝説だ。
なんでも代替わりの年(当主が死んだ年)に、新当主(息子)の長男もしくは長女が死ぬ、という話らしい。
どうしてうちの家だけがそんな怖い伝説なんだ・・・と俺は思った。
もっとも俺からすれば、母方の家の伝説だから直接は関係無いが、お盆だったか正月だったか、母方の親戚が集まっている時に一緒になり、それを聞いてしまった。
ただその時は「へぇ~」と思って何だか嬉しかったが。
伝説がある家なんて、そうはいってもあまりないし、俺はオカルトが好きだからだ。
それから何年か過ぎた頃、本家(母方の家)の長男が結婚する段階で、またそんな話になった。
伝説の話なんて、俺にしてみればオカルト的な一つのネタに過ぎなかったので、すっかり忘れていた。
その時も母方のオバチャン連中が何やら神妙に話していた。
みんなが小声で。
何を話しているのか一緒に聞いていたら、どうやら戸籍の話をしている。
「○○が結婚したろぅ?子供ができたらウチゃアノ話があるけん、どうすりゃあ言うて話しょーったんよ」
「それでも今はソンな話言うてもいけんけぇ、普通にしょうやぁいう事になってなぁ」
・・・という話だった。
口を挟みづらい雰囲気だったので黙っていたが、後から母に聞いてみると、本家の長男(30歳くらい)が結婚することになり、子供が生まれた場合の戸籍申請に関することだったようだ。
母から聞いた時は「それが何か???」という印象だったが、よくよく聞いてみると、件の長男長女の伝説のことらしかった。
当たり前だが、長男長女が死ぬということは、家を継ぐ人間がいなくなるわけで。
そうなれば養子をもらうしかないのだが、古い家なのでそういうわけにもいかない。
ならば、この家はこれまでどうやってきたのか?
聞けば、長男長女が生まれた場合、実の親ではなく祖父の子供として申請していたという。
戸籍上、長男も長女も祖父の養子にすれば、代替わりの時の凶事に遭わなくて済むからだ。
それだけでも例えようもないくらい、俺は嫌な気分になった。
古い因習をいつまでも守り続けるということは、決して良いことばかりではないんだな、と。
ちなみに母は兄弟が何人かいるのだが、長男長女はそれぞれ戸籍上は実父の子供ではなく、祖父の子供として登録されているという。
60年くらい前までは、そんな伝説も本気で守り通してきた人たちがいるのだ。
俺にとっては伝説そのものよりも、その事実の方がゾッとする。
ちなみに、本家は長女が赤ん坊の頃に亡くなっている。
死産か生後亡くなったのかは不謹慎で聞けていないが・・・。