1m先も出口の光も見えない奇妙なトンネル
これは、今から10年くらい前の大学生の夏に、家の近所の『とあるダム湖』に釣りに出かけた時の話。
地元では、そのダム湖で釣りをしたという人を聞いたことがなかったのだが、「水があるなら何か釣れるだろう」と思って、半ば開拓のつもりで釣りに出かけた。
ダムサイトに着いたらちょっとした駐車場があり、その横に『小さなトンネル』があった。
そのトンネルを越えて奥に行こうかと思ったが、なんだかそのトンネルが“妙”だった。
不自然
緩くカーブしているせいで、外からは向こうの出口が見えているにもかかわらず、何か不自然に真っ暗なのだ。
いや、真っ暗というよりも、光を吸い込んでいるのか?というくらいに、一歩先の向こうすら見えない。
普通、トンネルならトンネル入口付近の景色くらいは見えるはずなのに、トンネルを境にして絵の具を塗ったかのようにペッタリと暗くて、先には何も見えなかった。
試しに車から降りてトンネルを覗いてみたが、そこでさらに妙なことに気がついた。
トンネルの天井やら壁に付いているはずのライトすらも全く見えないのだ。
本当に1m先でさえ見えない。
10mもないトンネルなのに、すぐそこのはずの出口の光も見えないのはおかしい。
大体、入り口からだって多少の日光は差し込むはずだと思っていたところ、突然強烈に気味が悪くなり、結局は車をUターンして釣りをしないで帰ってきた。
それから5年くらいが経った頃、また「そのダムに行こう」と思って車を走らせたことがあったのだが、途中で崖崩れがあって通行止めになっており、そのダムには到達できなかった。
あとがき
場所は、東北地方の某ダム。
調べれば分かると思うが、明治期に日本史上最悪の水分け闘争が起こった地域で、百姓たちが猟銃を持ち出しての銃撃戦になり、数百人規模の死傷者を出したそうだ。
そのダムは、その水分け闘争を治めるためだけに村落を移転して出来たかなり古い時期のダムで、あまりよくない成り立ちも持つようで、もしかしたらそういうことなのかもしれない。
ちなみに、若い頃の宮沢賢治も測量の仕事でそのダム湖付近を訪れたという。
その時に泊まっていたテントが、何かよく分からない魔物に襲われて一睡もできなかったことから、「妖しきものに囲まれて立つ」という短歌を詠んでいる。
なので、元からそういう土地なのかもしれない。
※葛丸ダム|参考
気になったので調べてみました。おそらくですが、岩手県にある葛丸(くずまる)ダムだと思われます。(管理人より)
(終)