川沿いに揺らめいていたオレンジ色の炎
これは昭和最後の年、息子夫婦の帰省の時の話です。
混雑する列車と夜行バスに揺られて町の駅に着いたのは、夜も11時を回った頃でした。
町の知り合いのタクシーの運転手にお願いをし、迎えに行っていただきました。
息子夫婦の到着した駅からは、タクシーで峠を越えて40分ほどかかります。
運転手さんを含む3人は、真っ暗な山道を進んでいました。
曰くのある土地柄
途中、細い川にかかる橋の袂(たもと)で、息子は不思議なものを目にします。
それは、オレンジ色に揺れる『炎』でした。
まるでキャンプファイヤーのようなゴウゴウとした炎が、川沿いに揺らめいていたそうです。
「こんな時間に誰か焚き火でもやっているのか?それとも山火事か?」
タクシーを橋の欄干に止め、「気味が悪い・・・」と言う妻を残し、運転手さんと息子の2人で欄干から30メートルほど離れた所に揺れる炎を観察しました。
炎の高さは身の丈ぐらいあったと言います。
しかし、どれだけ目を凝らしても、火の番をしていると思われる人がいません。
焚き火には付き物の火の粉も舞っていなかったそうです。
もし山火事なら無線で連絡をしなければならない、と2人は車に戻ろうとしました。
すると突然、炎はスゥーと横に動き、フッとかき消すように消えたそうです。
3人が家に着いた時、「狐火を見た!」と、かなり青ざめた様子でした。
その話を翌日に町外れの薬屋のおじいさんにすると、「その炎はどんな色だった?」と聞いてきたそうです。(おじいさんは50年以上ここで商売をしています)
息子夫婦はちょうどその箱のような・・・と、オレンジ色の風邪薬のパッケージを指差しました。
「あぁ、だったらそれは、たましの炎だ。狐火は青い」と、さらりと答えたそうです。(たまし=魂?)
そして、その炎を見た辺りの話をしてくれたそうです。
おじいさんによると、なんでも昔から落人伝説などの曰くのある土地柄で、昔から現代に至るまで色々な怪異を体験した人が多いのだそうです。
(終)