死んだ者が還ってくる団地

団地

 

これは、とある団地の奇妙な噂話。

 

彼の家の近くには、わりと大きな団地がある。

 

山中に切り開かれたその団地はまだ新しく、販売された当初は飛ぶように売れたのだそうだ。

 

しかし、ある時より変な噂が流れ始め、パタッと売れなくなったという。

 

『時々、死んだ者が還ってくる』

 

夜、ふと気がつくと、庭に誰か立っている。

 

退屈そうに、ゆらりふらりと身体を揺らしている。

 

窓越しに顔を確認すると、何年か前に死んだはずの家族なのだと。

 

ゾッとするような無表情なので、とても外へ確認に出る気になれないそうだ。

 

彼も一度、月光の下で、自宅の庭に立つ人影を見たことがあるという。

 

やはり、庭に出る勇気は持てなかったと話していた。

 

「でも親父だったよ。あの団地に越してから亡くなったんだ」

 

夜に還ってくる者は団地の中で死んだ者に限られている、という噂だった。

 

現在、彼の家族はその団地から引っ越している。

 

「でも時々思うんだ。親父が、まだあの家に居るんじゃないかなって。中に入れず庭で立ち尽くしているんじゃないかなって」

 

なんとなく寂しそうに彼はそう言っていた。

 

(終)

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