霊安室に向かうエレベーター
病院で掃除のバイトしてた頃の話。
掃除は深夜、
誰もいなくなってからやっていた。
その日、俺は
全ての作業を終え、
エレベーターで一階に
降りようとした。
この時間は看護婦も
診回りに行かないし、
医者も当直しかいない。
まして、患者さんなど
いるはずも無いから、
病院の中は
本当に静かだった。
㊦ボタンをいつものように押すと、
エレベーターは上に上がってくる
・・・はずだった。
なぜだか、その日は
下へ下へと降りていく。
そして、エレベーターは
地下二階で止まった・・・。
その階には、『霊安室』と
いくつかの検査室しかなかった。
誰があの階に?
いるわけがない・・・。
今日の深夜バイトは
俺一人なんだから・・・。
そう考えているうちに、
エレベーターは上がってきた。
途中で止まってくれたら、
誰か忘れ物でもしたのだ、
と思えるのに。
エレベーターはそのまま、
俺がいる階まで上がってきた。
霊安室のある階から
ノンストップで最上階まで。
最上階には物置しかなくて、
俺は掃除用具を片付けに
来ただけだった。
誰もここに来るはずが無かった。
そして、
エレベーターの扉が開いた・・・。
そこには誰もいなかった。
何だ、勘違いか。
と、安心して
乗り込もうとした瞬間、
寒気がしてきた。
エレベーターの中からだ。
俺はもう気持ち悪くって、
エレベーターを諦め、
階段を使って一階まで降りた。
えらく時間が長く感じた。
後ろに何かがいるような気がして、
後ろも見ず、一気に駆け下りた。
次の日は昼番で、
そこで初めて聞いた。
あの日、患者さんが
屋上から飛び降りしたのを。
そして、
遺体は霊安室にあったことを。
(終)