ある時から幽霊が見えるようになった
俺のばあちゃんの話。
ばあちゃんは不思議な人で、昔から俺だけに「おばあちゃんは幽霊が見えるとよ。誰にも言っちゃいかんけんね」と言っていた。
実際に俺が霊体験をしたわけではないが、ばあちゃんの話は印象に残っている。
幽霊というのは知らん振りをすれば・・・
ばあちゃんが幽霊が見えるようになったのは、15歳の頃からだったらしい。
ばあちゃんは元々福岡に住んでいて、福岡大空襲の後に見えるようになったと言っていた。
空襲が終わった後、辺りは一面の焼け野原。
ばあちゃんの両親も亡くなって、これからどうしようと途方に暮れていた時、一人の大怪我をした男の人を見つけたそうだ。
急いで近づいたけれども、どう考えても生きていられるような傷ではなかった。
両腕は吹っ飛び、脳みそがはみ出ている。
「痛い・・・、痛い・・・、お父さーん、お母さーん・・・」
ずっと泣き叫んでいる。
ばあちゃんはその男の人の体を掴もうとするが、なぜか掴めない。
話かけても反応しない。
そのうち、ばあちゃんも怖くなり、走って逃げたらしい。
ばあちゃんは、「その日から幽霊が見え始めた」と言っていた。
外を見れば、体中から血を噴き出して叫んでのた打ち回っている人や、焼け爛れた体でひたすら助けを求める人、頭が無いのに動いている人など、最初は地獄だったそうだ。
空襲が終わった後、どうにか親戚に身を寄せることが決まっても、幽霊は見え続けた。
でも、それは絶対に言えなかった。
「幽霊が見える」なんて言ったら、すぐに異常者扱いされるような時代だった。
でも、ばあちゃんもなかなか強い女で、段々と幽霊も見慣れてきたらしい。
足が無かろうが、頭が吹っ飛んでようが、あまり怖くなくなった。
ばあちゃんいわく、幽霊というのは知らん振りをすればあまり関わって来ないらしい。
下手に近づく方が危ないのだと。
最初に見た頭が吹っ飛んでいる人にも、相当長い間付きまとわれたらしい。
そんなある日、だいぶ町並みもまともになってきた頃、ばあちゃんは一人の知り合いの男の子を見つけたそうだ。
その男の子は近所に住んでいてよく遊んであげた子。
でも本当は死んでいるはずの男の子だった。
両腕が無くなった痛々しい姿でばあちゃんを見ると、「お姉ちゃーん!」と大きい声で叫んだ後にっこりと笑った。
でも、幽霊の怖さを知り始めたばあちゃんは、知らん振りをし続けた。
それからそこを通る度、絶対に返事をしないばあちゃんに向かって「お姉ちゃーん!」と叫び続けていたそうだ。
「幽霊が見えるようになって随分経つけれど、あの子はまだあそこにいるんだろうね・・・」
ばあちゃんは寂しそうに俺に言った。
(終)