目をつけられた者は魂を抜かれる 2/2

集落

前回までの話はこちら

どうやら、俺はモリモリさまに目をつけられたらしい。

 

モリモリとは、森守りと書く。

 

モリモリさまはその名の通り、その集落一帯の森の守り神で、モリモリさまのおかげで山の恵みには事欠かず、山肌にへばり付くこの集落にも大きな災害は起こらずに済んでいる。

 

但し、その分よく祟るそうで、目をつけられたら最後、魂を抜かれるそうだ。

 

魂は未来永劫モリモリさまに囚われ、森の肥やしとして消費される。

 

そういったサイクルで、不定期だが大体20~30年に一人は、地元の者が被害に遭うらしい。

 

・・・と言っても、無差別に生贄のようなことになるわけではない。

 

モリモリさまは森を荒らす不浄なものを嫌うらしく、それに対して呪いをかける。

 

その対象は獣であったり人であったりと様々だが、余計なことをした者に姿を見せ、子供のような声で呪詛の言葉をかける。

 

そして、姿を見た者は3年と経たずに取り殺されてしまう。

 

(おそらく、アムアモと唸っていたのが呪詛の言葉だろう)

 

流れとしては、山に対し不利益なものをもたらす人間に目をつけ、呪いという名の魂の受け取り予約をする。

 

じわじわと魂を吸い出していき、完全に魂を手に入れた後は、それを燃料として森の育成に力を注ぐ。

 

そういう存在なのだそうだ。

 

今回の場合、大叔父が2年前に目をつけられたらしい。

 

それも、あのマークⅡに乗っている時に。

 

モリモリさまを迷信としか思っていなかった大叔父は、山に不法投棄している最中に姿を見たそうだ。

 

慌てて車を走らせ逃げたそうだが、ここ最近は毎晩のようにモリモリさまが夢枕に立つと言っており、ある日に大叔母が朝起こしに行くと心臓発作で死んでいた。

 

だが、大叔父だけでなく、おそらく車も対象になっていて、それに乗って山を通った俺も祟られてしまった。

 

・・・というのが大叔母たちの説明と見解である。

 

そんな荒唐無稽な話を信じられるはずもなかったが、今朝の出来事を考えると、自然と身体が震え出すのが分かった。

 

※荒唐無稽(こうとうむけい)

言動に根拠がなく、現実味のないこと。

 

何より、大叔母たちの顔が真剣そのものだったのだ。

 

大叔母がどこかに電話をかけ、白い服を着た老婆が現れた。

 

聞くところ、その老婆は村一番の年長者で事情通らしいが、その老婆も大叔母たちと同じような見解だった。

 

「どうにもならん。可哀相だが諦めておくれ」

 

そう言い残し、さっさと帰って行った。

 

俺が来た時の明るい雰囲気はどこへやら、すっかり重苦しい空気が漂っていた。

 

「すまない。お父さんが連れていかれたからしばらくは大丈夫やと思ってたんやが・・・」

 

すまない、すまないと、みんながしきりに謝っていた。

 

勝手に来たのは俺だし、怖いからそんなに頭を下げるのはやめて欲しかった。

 

大叔父が車を手放したのは歳がうんぬんではなく、単純に怖かったのであろう。

 

そんな車を寄越した大叔父にムカっとしたが、もう死んでいるのでどうしようもない。

 

急にこんな話を捲くし立てられても頭が混乱してほとほと困ったが、呪詛の言葉をかけられた以上はどうしようもないそうなので、俺は日の明るいうちに帰ることになった。

 

何せ、よそ者が出会ってしまった話は聞いたことがないそうで、姿を見ていない今のうちに関西へ帰り、車を捨ててしまえばモリモリさまも手が出せないのでは、という淡い期待もあった。

 

どうやら、姿を見ていないというのは幸いしているらしい。

 

大叔母の車に先導されて市内まで出ると、そこで別れて俺は一目散に関西へ帰った。

 

「二度と来ちゃいかん。そしてこの事は早う忘れなさい」

 

大叔母は真顔でそう言った。

 

帰った後、すぐに71マークⅡは処分し、最近になって新しく100系マークⅡを購入した。

 

俺はマークⅡが好きなんだな、きっと。

 

この出来事、信じているかと言われたら、7割ぐらいは信じていない。

 

家族にも話してみたし、親父は直接あちらと電話もしたそうだが、それでも信じていないというのか、イマイチ理解できない様子だ。

 

肝心の祖母はボケてきて、どうにもこうにも・・・。

 

ただ気がかりなのは、村を出る道すがら、山道で前を走る大叔母の車の上に乗っかり、ずっと俺を見ていた子供の存在だ。

 

あれが多分、モリモリさまなんだろう。

 

(終)

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