おいぼ岩 1/4

時刻は夜十時を幾分か過ぎた、

とある冬の日のこと。

 

僕を含めて三人が乗った車は、

 

真夜中の国道を平均時速80キロくらいで、

潮の香りを辿りつつ海へと向かっていた。

 

僕が住む街から車で二時間ほど走ると、

太平洋を臨む道に出る。

 

その道をしばらく西に進むと、

 

海岸線沿いに申し訳程度の

松林が見えてくる。

 

僕らが今目指しているのは、

その松林だった。

 

おいぼ岩。

 

松林の奥にそう呼ばれる

岩があるそうだ。

 

詳しいことは知らないが、

何か黒い曰く付きの岩らしい。

 

おいぼ岩を見ること。

 

それが今日の肝試し兼

オカルトツアーの目的だった。

 

発案者は後部座席で就寝中の

友人Kだ。

 

運転席にはS、助手席に僕、 

いつものメンバーだ。

 

車内では噂を仕入れてきたKが、

 

何も語らないまま車酔いで

ダウンしてしまっているため、

 

これからオカルトに挑むというのに、

緊張感も期待感も何も無い。

 

情報は現地に着いてから。

行き当たりばったり。

 

僕らの肝試しは

大体いつもこんな感じだ。

 

「なあなあ、Sは知ってるん?

おいぼ岩」

 

やがて後ろで倒れたKの寝息が

聞こえてきた頃、

 

僕は運転席のSに訊いてみた。

 

Sはさほど興味も無い口調で、

 

S「いや、知らん。・・・まあ、

Kの奴が飛び付く様な話だからな。

 

ロクなもんじゃないだろ」

 

「おいぼ岩の、おいぼ、って

どんな意味なんだろ?」

 

S「おぶるってことじゃなかったか?

 

確かな記憶じゃないが、

昔ばあちゃんに言われた気がするな・・・」

 

「『おいぼしちゃおか?』 とかかな。

あー、何か分かる気がする。

 

ってことは、二つの岩が

縦に重なってるんかな。

 

雪だるまみたいにさ」

 

S「知らん。

ま、行けば分かるだろ」

 

車は順調に走り、

 

目的の松林に着いたのは

丁度夜中の十一時になった頃だった。

 

僕は後部座席のKを起こして

車を降りた。

 

松林を挟んで海岸と、

反対側には小高い岩山が構えている。

 

道路側から見る岩肌は、

 

人の足で上るのには苦労しそうな

急勾配をしている。

 

別に上るつもりは無いけども。

 

足元には針の様な松の葉が

散らばっていて、

 

夜の木枯らしに撫でられて

ザラザラ音を立てていた。

 

と言っても松は常緑樹なので、

枝には青い葉が残っている。

 

寒い、とりあえず寒い。

 

車のライトビーム懐中電灯を片手に、

僕は光を松林の中に向けた。

 

Sは車から降りて来ず、

 

ウィンドウを開いて右肩を外に出し、

退屈そうにあくびをしている。

 

隣を見ると、

 

起きたばかりのKも

あくびをしていた。

 

目の前の松林には、

 

僕らの乗って来た車と同じくらい

大きな岩が、

 

そこら中にごろごろ転がっていた。

 

数え切れないほどではないが、

おそらく両手の指では足りないだろう。

 

そのほとんどが、

 

川で見かける様な角の取れた

白っぽい岩ではなく、

 

ごつごつした形の、

いびつな黒い岩だった。

 

「なあなあKー。

そのおいぼ岩って、どれなん?」

 

僕はひとしきりあくびを終えた

Kに訊いてみる。

 

K「全部」

 

「え、何?」

 

K「だからゼーンブ。

 

この辺りにある岩は、

全部そう呼ばれてんだよ」

 

予想外の答えに、

僕はもう一度周りを見回した。

 

おいぼ岩とは、

 

予想に反して岩の種類とか

そんな話なのだろうか。

 

Kがガードレールを乗り越えたので、

僕も続いてガードレールを跨いで松林に入る。

 

Kは停めた車から一番近くにあった

岩の傍で立ち止まった。

 

その岩は他の岩に比べると角が少なく、

球に近い形をしていた。

 

大きさは縦に二メートル、

横に一メートル半くらい。

 

その岩を見て僕は、

 

昔博物館で見た恐竜の卵の化石を

ふと思い出した。

 

K「・・・噂じゃあ、どっかに手形とか

人型がついてるはずなんだけどなー。

 

人型なら魚拓みてえにさ。

 

この岩じゃあないみてーだな、

見当たんねえわ」

 

岩の周囲をぐるりと一周して

Kはそう言った。

 

しかしながら当然、

まだ何も聞かされていないのだから、

 

手形と言われても

僕には何のことだか分からない。

 

「なあなあ。

そのおいぼ岩って結局なんなのさ。

 

血なまぐさい言い伝えが

あるって話だけど・・・」

 

Kは僕の方をちらりと見て

「くふっ」と一つ笑った。

 

それから、唐突に

 

手に持っていた懐中電灯を

自分の顎の下に当てると、

 

鼻っ柱や頬を光らせながら、

何処となく稲川淳二風に語りだした。

 

(続く)おいぼ岩 2/4へ

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