おいぼ岩 2/4

K「・・・おいぼ岩の『おいぼ』って言うのは、

実はおんぶするって意味なんですよね・・・。

 

でもほらー、

この岩は何も背負ってないでしょ?

 

おっかしいなあ、とか

思いません?」

 

「いや。そういうのいいから」

 

おいぼの意味はSが言っていた様に、

おぶる、背負う、で正しかったようだ。

 

僕の言葉を無視してKは

そのまま話を続ける。

 

K「実はですねー、この辺りには昔、

一風変わった罪人の処刑方法が

あった様でしてね。

 

・・・ほら、向こうに山があるでしょ?

ごつごつした岩山。

 

・・・処刑方法ってのはね?

 

あそこで切りだした岩に

罪人を括りつけて、

 

転がすんですよ。

山の上から」

 

「・・・転がす?」

 

K「私もそれ聞いたときねー、

思ったんですよ。

 

『あ、これきたな』 って。

 

ロープで両手両足、

それと首、

 

一つずつ縛るんですよ。

 

一つ千切れても

岩から離れないようにってね・・・」

 

稲川淳二じゃないが、

 

僕もそれを聞いた瞬間、

ゾッときた。

 

K「罪人が背負う岩、だから

おいぼ岩って言うんです。

 

噂じゃあー

それぞれの岩に一人ずつ、

 

そうやって処刑された罪人の念が

染み込んでいるって話・・・。

 

いやあーしかし、

人間ってのは怖い生き物ですねぇ・・・

 

そう思いませんか・・・?」

 

そうしてKは、懐中電灯の光を、

パチ、と消してライブを締めくくった。

 

話が終わった後も、

 

僕の心臓は普段よりも

早いスピードで脈打っていた。

 

そんな馬鹿な。

 

いくらなんでも、

岩に縛って転がすとか、

 

そんな幼稚で残虐な処刑方法が、

日本で行われていただなんて信じられない。

 

「・・・結局は、噂話なんでしょ?」

 

僕が言うと、

 

別の岩に行こうとしていた

Kが振り返る。

 

その顔には、また顎の下から

光が当てられていた。

 

K「さあ・・・、わたしには

何とも分かりませんが・・・、

 

それでも、多くの文献やら

古い資料やらにも載っている、

 

『噂話』

 

ではある様ですけどねぇ・・・?」

 

そう言い残して、Kは一人

松林の奥に行ってしまった。

 

僕はKに付いて行かず、

 

この卵の様な、

自分より少し背の高い岩の横で、

 

じっと固まっていた。

 

そんなことが本当にあったのか。

僕には分からない。

 

ただ昔、

 

この辺りは今よりもずっと

交通の便が悪く、

 

周囲から孤立した地域だったとは

聞いたことがある。

 

だとしたら。

僕は想像する。

 

もしかしたら、

あったのかもしれない。

 

罪人を岩に縛り付けて、

山の上から転がす処刑方法が。

 

幾度目か僕は辺りを見回した。

 

月明かり。

 

見える範囲の至るところに

黒い岩の影。

 

人を轢き殺した、

圧し殺した、

 

擦り殺したかもしれない

無数の岩に、

 

今僕は囲まれている。

 

ぞくり、と何かが僕の

首筋を撫でた。

 

一瞬めまいがして、

 

僕は傍らの岩に両手をついて

身体を支えた。

 

いかんいかん、

僕は想像力が豊かすぎる。

 

目を瞑って、

 

グラグラ揺れる感覚を

平常に戻そうと意識を集中させる。

 

その時だ。

 

僕はふと、

背中に人の気配を感じた。

 

Sかな、と思った途端、

違和感を感じる。

 

気配は一人のものではない。

 

Kが戻って来た?

 

いや、Kはさっき車と反対方向に

行ったはずだ。

 

それ以前に、

 

この気配は二人や三人と

いったものではなかった。

 

大勢の人間だ。

 

音。

 

押し殺した息遣い。

布同士が擦れ合う。

砂利を踏む。

 

めまいはまだ続いている。

 

それでも僕は、

 

ゆっくりと目を開き

後ろを振り返った。

 

目の前に人がいた。

 

十人・・・二十人・・・、

いやそれ以上かもしれない。

 

めまいのせいで視界が

ぼやけているが、

 

皆着物を着ていて、

 

顔はミイラの様に白い布を

巻いていて分からない。

 

隙間から目だけが覗いている。

 

松明を持つ者、

丸太を持つ者、

縄を持つ者。

 

僕は声を出そうとした。

でも出なかった。

 

口に違和感がある。

 

どうやら僕は、

さるぐつわを噛まされているらしい。

 

何時の間に、と

考える余裕は無かった。

 

さるぐつわだけじゃない。

両手両足も動かない。

 

僕の身体は

岩に括り付けられていた。

 

一番ぞっとしたのは、

首に巻かれた縄を意識した時だ。

 

何だこれ何だこれ何だこれ。

でたらめにもがく。

 

硬く結ばれた縄は

ビクともしない。

 

周りの景色さえ変わっている。

 

(続く)おいぼ岩 3/4へ

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