リアル 1/11
何かに取り憑かれたり、狙われたり、
付きまとわれたりしたら、
マジで洒落にならんことを最初に言っておく。
もう一つ、
俺の経験から言わせてもらうと、
一度や二度のお祓いをすれば何とかなる
って事は、まず無い。
長い時間かけて、
ゆっくり蝕まれるからね。
祓えないって事の方が多いみたいだな。
俺の場合は、大体2年半くらい。
一応、断っておくと、
五体満足だし人並みに生活出来てる。
ただ、残念ながら、
終わったかどうかって点は
定かじゃない。
まずは始まりから書くことにする。
当時、俺は23才。
社会人一年目って事で、
新しい生活を過ごすのに精一杯な頃だな。
会社が小さかったから、
当然同期も少ない。
必然的に仲が良くなる。
その同期に、東北地方出身の○○って奴がいて、
こいつがまた色んな事を知ってたり、
やけに知り合いが多かったりしたわけ。
で、よく『これをしたら××になる』とか、
『△△が来る』とかって話あるじゃない?
あれ系の話は、
ほとんどガセだと思うんだけど、
幾つかは本当にそうなっても
おかしくないのがあるらしいのよ。
そいつが言うには何か条件が幾つかあって、
偶々揃っちゃうと起きるんじゃないかって。
俺の時は、まぁ悪ふざけが原因だろうな。
当時は車を買ってすぐだったし、
一人暮らし始めて間もないし、何より
バイトとは比べ物にならない給料が入るんで、
週末は遊び呆けてた。
8月の頭に、
ナンパして仲良くなった子達と○○、
そして俺の計4人で、
所謂心霊スポットなる場所に、
肝試しに行ったわけさ。
その場は確かに怖かったし、寒気もしたし、
何かいるような気がしたりとかあったけども、
特に何も起こらず、
まぁスリルを満喫して帰ったわけだ。
3日後だった。
当時の会社は、
上司が帰るまで新人は帰れないって
暗黙のルールがあって、
毎日遅くなってた。
疲れて家に帰って来て、
ほんと今思い出しても理解出来ないのだが、
部屋の入口にある姿見の前で、
『してはいけないこと』をやったんだ。
試そうとか考えたわけではなく、
ふと思い付いただけだったと思う。
少し細かな説明をする。
当時の俺の部屋は、駅から徒歩15分、
八畳1R、玄関から入ると細い廊下があり、
その先に八畳分の部屋がある。
姿見は部屋の入口、つまり、
廊下と部屋の境目に置いていた。
俺が○○から聞いていたのは、
『鏡の前で△をしたまま右を見ると◆が来る』
とか言う話だった。
体勢的に、ちょっとお辞儀をしているような
格好になる。
「来るわけねぇよな」なんて呟きながら、
お辞儀のまま右向いた時だった。
部屋の真ん中辺りに何かいた。
見た目は明らかに異常。
多分、160センチ位だったと思う。
髪はバッサバサで腰まであって、
簾みたいに顔にかかってた。
っつーか、顔にはお札みたいなのが
何枚も貼ってあって見えなかった。
なんて呼ぶのかわからないけど、
亡くなった人に着せる白い和服を着て、
小さい振り幅で左右に揺れてた。
俺は、というと・・・、固まった。
声も出なかったし、一切体は動かなかったけど、
頭の中では物凄い回転数で、
起きていることを理解しようとしてたと思う。
想像して欲しい。
狭い1Rに、音もない部屋の真ん中辺りに
何かいるって状態を。
頭の中では、原因は解りきっているのに、
起きてる事象を理解出来ないって混乱が
渦を巻いてる。
とにかく異常だぞ?
灯りをつけてたけど、逆にそれが怖いんだ。
いきなり出て来たそいつが見えるから。
そいつの周りだけ青みがかって見えた。
時間が止まったと錯覚するくらい静かだったな。
とりあえず俺が出した結論は、
『部屋から出る』だった。
足元にある鞄を、
何故かゆっくりと慎重に
手に取った。
そいつからは目が離せなかった。
目を離したらヤバいと思った。
後退りしながら廊下の半分(普通に歩いたら
三歩くらいなのに、かなり時間がかかった)
を過ぎた辺りで、
そいつが体を左右に振る動きが、
少しずつ大きくなり始めた。
と同時に、
何か呻き声みたいなのを出し始めた。
そこから先は、実はあんまり覚えてない。
気が付くと駅前のコンビニに入ってた。
兎にも角にも、
人のいるコンビニに着いて安心した。
ただ、頭の中は相変わらず混乱してて、
『何だよアレ』って怒りにも似た気持ちと、
『鍵閉め忘れた』って、
変なとこだけ冷静な自分がいた。
結局、その日は部屋に戻る勇気は無くて、
一晩中、ファミレスで朝を待った。
空が白み始めた頃、
恐る恐る部屋のドアを開けた。
良かった。
消えてた。
部屋に入る前に、もう一回外に出て、
缶コーヒーを飲みながら一服した。
実は何もいなかったんじゃないかって
思い始めてた。
本当に、あんなん有り得ないしね。
明るくなったってのと、もういないってので、
少し余裕出来たんだろうね。
さっきよりは、やや大胆に部屋に入った。
『よし、いない』なんて思いながら、
カーテンが閉まってるせいで薄暗い
部屋の電気をつけた。
昨晩の出来事を裏付ける光景が
目に入ってきた。
(続く)リアル 2/11へ