リアル 7/11

S先生の家(寺でもあるが)に着くと、

ふっと軽くなった気がした。

 

何か起きたっていうよりは、俺が勝手に

安心したって方が正しいだろうな。

 

門をくぐり、石畳が敷かれた細い道を抜けると、

初老の男性が迎え入れてくれた。

 

そう言えば、S先生の家には、

いつもお客さんがいたような気がする。

 

きっと、祖母のように、

通っている人が多いんだろう。

 

奥に通され、裏手の玄関から入り

進んでいくと、十畳くらいの仏間がある。

 

S先生は俺の記憶の通り、

仏像の前に敷かれた座布団の上に

正座していて、

ゆっくりと振り向いたんだ。

(下手な長崎弁を

記憶に頼って書くが見逃してな)

 

祖母「Tちゃん、もうよかけんね。

S先生が見てくれなさるけん」

 

S先生「久しぶりねぇ。

随分立派になって。早いわねぇ」

 

祖母「S先生、Tちゃんば

大丈夫でしょかね?」

 

祖父「大丈夫って。そげん言うたかて

まだ来たばかりやけん、

S先生かてようわからんてさ」

 

祖母「あんたさんは黙っときなさんてさ。

もうあたし心配で心配で仕方なかってさ」

 

何でだろう・・・、

ただS先生の前に来ただけなのに、

それまで慌ていた祖父母が

落ち着いていた。

 

それは両親にも俺にも伝わってきて、

深く息を吐いたら、

身体から悪いものが出ていった気がした。

 

両親は、もう体力的にも精神的にも

限界に近かったらしく、

「疲れちゃったやろ?

後はS先生が良くしてくれるけん、

隣ば行って休んでたらよか」

と、人懐こい祖父の言葉に甘えて

隣の部屋へ。

 

S先生「じゃあTちゃん、

こっちにいらっしゃい」

 

S先生に呼ばれ、

向かい合わせで正座した。

 

S先生「それじゃ、Iさん達も

隣の部屋で寛いでらして下さい。

Tちゃんと話をしますからね。

後は任せて、

こっちの部屋には良いと言うまで

戻って来ては駄目ですよ?」

 

祖父「S先生、Tちゃんば

よろしくお願いします!」

 

祖母「Tちゃん、心配なかけんね。

S先生がうまいことしてくれるけん。

あんたさんは、よく言うこと

聞いといたらよかけんね。ね?」

 

しきりにS先生にお願いして、

俺に声をかけてくれる祖父母の姿に、

また涙が出てきた。

 

泣きっぱなしだな俺。

 

S先生はもっと近づくように言い、

膝と膝を付け合わせるように座った。

 

俺の手を取り、暫くは何も言わず、

優しい顔で俺を見ていた。

 

俺は何故か、

悪さをして怒られるじゃないかと

親の顔色を伺っていた、

子供の頃のような気持ちになっていた。

 

目の前の、敢えて書くが、

自分よりも小さくて

明らかに力の弱いお婆ちゃんの、

威圧的でもなんでもない雰囲気に

呑まれていた。

 

あんな人、本当にいるんだな。

 

S先生「・・・どうしようかしらね」

 

「・・・」

 

S先生「Tちゃん、怖い?」

 

「・・・はい」

 

S先生「そうよねぇ。このままって

わけにはいかないわよねぇ」

 

「えっと・・・」

 

S先生「あぁ、いいの。

こっちの話だから」

 

何がいいんだ!?

ちっともよかねーだろ、なんて

気持ちが溢れてきて、

耐え切れずついにブチ撒けた。

 

本当に人として未熟だなぁ、俺は。

 

「あの、俺どーなるんすか?

もう早いとこ何とかして欲しいんです。

大体何なんですか?

何でアイツ俺に付きまとうんですか?

もう勘弁してくれって感じですよ。

S先生、何とかならないんですか?」

 

S先生「Tちゃ・・・」

 

「大体、俺別に悪いこと

何もしてないっすよ!?

確かに□□(心霊スポット)には

行ったけど、俺だけじゃないし、

何で俺だけこんな目に会わなきゃ

いけないんすか?

鏡の前で△しちゃだめだってのも

関係あるんですか?

ホント訳わかんねぇ!

あーっ!いらつくぅぁー!!」

 

「ドォ~ドォルルシッテ」 

「ドォ~ドォルル」

「チルシッテ」

 

・・・何が何だかわからなかった。

(ホントにわけわかんないので、

取り敢えずそのまま書く)

 

「ドォ~。 シッテドォ~シッテ」

 

左耳にオウムかインコみたいな、

甲高くて抑揚の無い声が聞こえてきた。

 

それが、「ドーシテ」と繰り返していると

理解するまで、少し時間がかかった。

 

(続く)リアル 8/11へ

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