リアル 9/11

まず、アイツは幽霊とかお化けって

呼ばれるもので間違いない。

 

じゃあ所謂悪霊ってヤツかって言うと、

そう言い切っていいか、

S先生には難しいらしかった。

 

明らかにタチが悪い部類に入るらしいけど、

S先生には悪意は感じられなかったって

言っていた。

 

俺に起きた事は何なのかに対しては、

こう答えた。

 

「悪気は無くても、

強すぎるとこうなっちゃうのよ。

あの人ずっと寂しかったのね。

 

『話したい、触れたい、見て欲しい、

気付いて気付いてー』って、

ずっと思ってたのね。

 

Tちゃんはね、

わからないかもしれないけど、

暖かいのよ。

 

色んな人によく思われてて、

それがきっと『いいな~。優しそうだな~』

って思ったのね。

 

だから、自分に気付いてくれた事が、

嬉しくて仕方なかったんじゃないかしら。

 

でもね、Tちゃんはあの人と比べると

全然弱いのね。だから、

近くに居るだけでも怖くなっちゃって、

体が反応しちゃうのね」

 

S先生は、まるで子供に話すように

ゆっくりと、難しい言葉を使わないように

話してくれた。

 

俺は、どうすればいいのか

わからなくなったよ。 

 

アイツは絶対に、悪霊とか

タチの悪いヤツだと決めつけてたから。

 

S先生にお祓いしてもらえば

それで終ると思ってたから・・・。

 

それなのに、S先生がアイツを

庇うように話してたから・・・。

 

「さて、それじゃあ今度は

何とかしないといけないわね。

Tちゃん、時間かかりますけど、

何とかしてあげますからね」

 

この一言には本当に救われたよ。

 

あぁ、もういいんだ。

終るんだって思った。

やっと安心したんだ。

 

S先生に教えられたことを書きます。

 

俺にとって、

一生忘れたくない言葉です。

 

「見た目が怖くても、

自分が知らないものでも、

自分と同じように苦しんでると思いなさい。

救いの手を差し伸べてくれるのを

待っていると思いなさい」

 

S先生は、お経をあげ始めた。

 

お祓いのためじゃ無く、

アイツが成仏出来るように。

 

その晩、額は裂けてたし、

よくよく見れば

首の痕が大きく破けて痛かったけど、

本当にぐっすり眠れた。

(お経終わってもキョドってた俺のために、

笑いながらその日は泊めてくれた)

 

翌日、朝早く起きたつもりが、

S先生はすでに朝のお祈りを終らしてた。

 

「おはよう、Tちゃん。さ、顔洗って

朝御飯食べてらっしゃい。

食べ終わったら本山に向かいますからね」

 

関係者でも何でもないんで、

あまり書くのはどうかと思うが、

少しだけ。

 

S先生が属している宗派は、

前にも書いた通り

教科書に載るくらい歴史があって、

信者の方も修行されてる方も、

日本全国にいらっしゃるのね。

 

教えは一緒なんだけど、地理的な問題から

東と西それぞれに本山があるんだって。

 

俺が連れて行ってもらったのが、西の本山。

 

本山に暫くお世話になって、

自分が元々持っている徳

(未だにどんなものか説明できないけど)

を高める事と、

アイツが少しでも早く成仏出来るように、

本山で供養してあげられるためって

S先生は言ってた。 

 

その話を聞いて一番喜んだのが祖母。

まだ信じられなそうだったのが親父。

 

最後は、俺が「もう大丈夫。行ってくる」って

言ったから反対しなかったけど。

 

本山に着くと、迎えの若い方が待っていて、

S先生に丁寧に挨拶してた。

 

本堂の横奥にある小屋

(小屋って呼ぶのが憚れるほど

広くて立派だったが)で、

本山の方々に、ご挨拶。

 

ここでも、S先生には

かなりの低姿勢だったな。

 

S先生、実は凄い人らしく、

望めばかなりの地位にいても

不思議じゃないんだって、

後から聞いた。

(「寂しいけど序列ができちゃうのね」

ってS先生は言ってた)

 

俺は本山に暫く厄介になり、

まぁ客人扱いではあったけど、

皆さんと同じような生活をした。

 

多分、S先生の言葉添えが

あったからだろうな。

 

その中で、自分が本当に

幸運なんだなって実感したよ。

 

もう、四十年間ずっと蛇の怨霊に

苦しめられている女性や、

家族親族まで祟りで没落してしまって、

身寄りが無くなってしまったけど、

家系を辿れば立派な士族の末裔の人とか、

俺なんかよりよっぽど辛い思いしてる人が、

こんなにいるなんて知らなかったから・・・。

 

厳しい生活の中にいたからなのか、

場所がそうだからなのか、

あるいはS先生の話があったからなのか、

恐怖は大分薄れた。

(とは言うものの、ふと瞬間にアイツが

そばに来てる気がしてかなり怯えたけど)

 

本山に預けてもらって一ヶ月経った頃、

S先生がいらっしゃった。

 

「あらあら、随分良くなったみたいね」

 

「えぇ、S先生のおかげですね」

 

「あれから見えたりした?」

 

「いや・・・一回も。多分成仏したか

どっかにいったんじゃないですか?

ここ、本山だし」

 

「そんな事ないわよ?」

 

顔がひきつった。

 

「あら、ごめんなさい。

また怖くなっちゃうわよね。

でもねTちゃん、ここには

沢山の苦しんでる人がいるの。

その人達を少しでも多く

助けてあげるのが、私達の仕事なのよ」

 

多分だけど、S先生の言葉には

アイツも含まれてたんだと思う。

 

「Tちゃん、もう少しここにいて

勉強しなさい。折角なんだから」

 

俺は、S先生の言葉に従った。

 

あの時の事がまだまだ尾を引いていて、

まだここにいたいって思ってたからね。

 

それに、一日はあっという間なんだけど、

何て言うか、時間がゆっくり流れてるような

感じが好きだったな。

(何か矛盾してるけどね)

 

そんなこんなが続いて、結局

三ヶ月も居座ってしまった。

 

その間S先生は、

こっちには顔を出さなかった。

(二ヶ月前に来たきり)

 

やっぱりS先生の言葉がないと

不安だからね。

 

でも、哀しいかな、

さすがに三ヶ月もそれまで自分がいた

騒々しい世界から隔離されると、

物足りない気持ちが強くなってた。

 

(続く)リアル 10/11へ

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