リアル 4/11
こういう時、ほんの僅かでも、
希望って物凄いエネルギーになるぞ?
正直、こんなに嬉しい着信はなかった。
「もしもし」
『おぉ~!大丈夫~!?』
「ぃや・・・大丈夫なわけねーだろ・・・」
『ぁー、やっぱヤバい?』
「やべーなんてもんじゃねーよ。
はぁ・・・。っつーか何かないんかよ?」
『ぅん、地元の友達に聞いてみたんだけどさ~、
ちょっとわかる奴居なくて・・・、申し訳ない』
「ぁー、で?」
正直、○○なりに色々してくれたとは思うが、
この時の俺に、相手を思いやる
余裕なんてなかったから、
かなり自己中な話し方に聞こえただろう。
『いや、その代わり、友達の知り合いに
そーいうの強い人がいてさー。
紹介してもいいんだけど、金かかるって・・・』
「!? 金とんの?」
『うん、みたい・・・。どーする?』
「どんくらい?」
『知り合いの話だと、
とりあえず五十万くらいらしい・・・』
「五十万~!?」
当時の俺からすると、働いているとはいえ
五十万なんて払えるわけ無い額だった。
金は惜しかったが、
恐怖と苦しみから解放されるなら・・・。
選択肢は無かった。
「・・・わかった。いつ紹介してくれる?」
『そのひと今、群馬にいるらしいんだわ。
知り合いに聞いてみるから、
ちょっと待ってて』
話が前後するが、俺が仏像の前で
南無阿弥陀仏を繰り返していた時、
母は祖母に電話をかけていた。
祖母からすぐにS先生に相談が行き、
(相談と言うよりも、助けて下さい
ってお願いだったらしいが)
最終的には、
S先生がいらしてくれる事になっていた。
ただし、S先生もご多忙だし、何より高齢だ。
こっちに来れるのは、三週間先に決まった。
つまり、三週間は不安と恐怖と、
何か起きてもおかしかない状況に
居なければならなかった。
そんな状況だから、
少しでも出来るだけの事をしてないと、
気持ちが落ち着かなかった。
○○が電話を折り返してきたのは、
夜11時を過ぎた頃だった。
『待たせて悪いね。知り合いに相談したら
連絡入れてくれて、明日行けるって』
「明日?」
『ほら明日、日曜じゃん?』
そうか、いつの間にか、
奴を見てから五日も経つのか。
不思議と会社の事を忘れてたな。
「わかった。ありがと。
ウチまで来てくれるの?」
『家まで行くって。車で行くらしいから、
住所メールしといて』
「お前はどーすんの?
来て欲しいんだけど」
『行く行く』
「金、後でも大丈夫かな?」
『多分、大丈夫じゃね?』
「わかった。近くまで来たら電話して」
何とも段取りの悪い話だが、
若僧だった俺には仕方の無い事だった。
その晩、夢を見た。
寝てる俺の脇に、白い和服を着た
若い女性が正座していた。
俺が気付くと、
三指をつき深々と頭を下げた後、
部屋から出ていった。
部屋から出る前に、
もう一度深々と頭を下げていた。
この夢が、アイツと関係しているのかは
わからなかったが。
翌日、昼過ぎに○○から連絡が来た。
電話で誘導し、出迎えた。
来たのは○○とその友達、そして
三十代後半くらいだろう男が来た。
普通の人だと思えなかったな。
チンピラみたいな感じだったし、
何の仕事をしてるのか想像もつかなかった。
俺がちゃんと説明していなかったから、
両親が訝しんだ。
まず間違いなく偽名だと思うが、
男は林と名乗った。
林「T君(俺)の話は、
彼(○○)から聞いてましてね。
まー厄介な事になってるんです」
父「それで、林さんはどういった関係で
いらしていただいたんですか?」
林「いやね、これもう素人さんじゃ
どーしようもなぃんですよ。
お父さん、いいですか?
信じられないかも知れませんが、
このままだとT君、危ないですよ?
で、彼が友達のT君が危ないから
助けて欲しいって言うんでね、
ここまで来たってわけなんですよ」
母「Tは危ないんでしょうか?」
林「いやね、私も結構こういうのは
経験してますけど、こんなに酷いのは
初めてですね。この部屋いっぱいに
悪い気が充満してます」
父「・・・失礼ですが、林さんの
ご職業をお聞きしても良いですか?」
林「あー、気になりますか?
ま、そりゃ急に来て、
こんな話したら怪しいですもんねぇ。
でもね、ちゃんと除霊して、
辺りを清めないと、T君、
ほんとに連れて行かれますよ?」
母「あの、林さんに
お願い出来るでしょうか?」
林「それはもう、任せていただければ。
こーいうのは、私みたいな
専門の者じゃないと駄目ですからね。
ただね、お母さん。
こっちとしても危険があるんでね、
少しばかりは包んでいただかないと。
ね、わかるでしょ?」
父「いくらあればいいんです?」
林「そうですね~、
まぁ二百はいただかないと・・・」
父「えらい高いな!?」
林「これでも、彼が友達助けて欲しい
って言うから、わざわざ時間かけて
来てるんですよ?
嫌だって言うなら、
こっちは別に関係無いですからね~。
でも、たった二百万でT君助かるなら、
安いもんだと思いますけどね」
林「それに、T君もお寺に行って
相手にされなかったんでしょう?
わかる人なんて一握りなんですわ。
また一から探すんですか?」
俺は黙って聞いてた。
さすがに二百万って聞いた時は○○を見たが、
○○もばつの悪そうな顔をしていた。
結局、父も母もわからないことに
それ以上の意見を言えるはずもなく、
渋々任せることになった。
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