ウィッグの心

俺は美容師の卵なんですが、

「ウィッグ」ってご存知でしょうか。

 

美容室やドラマなんかでよく見る

首だけの人形で、

 

練習によく使われるアレです。

 

そのウィッグにまつわる、

一年ほど前の実体験です。

 

その頃の俺は、

 

ウィッグを大切に扱う心など

微塵もなく、

 

髪を掴んで持ち運んだりなど、

平気でしていました。

 

ある日、いつものように自分の部屋で

ウィッグを相手に練習をしていましたが、

 

どうも上手くいかずに、

だんだんイライラしてきました。

 

「なんで、こんなに下手なんだよ!!」

 

と独り言を言いながら

練習をするのも止め、

 

タバコを吸いながら何となく、

ウィッグの顔の部分に霧吹きで

水を掛けて遊んでいました。

 

ウィッグの顔がどんどん

濡れていくのを見ているうちに、

 

雫のせいかもしれませんが、

泣いているような気がしてきたんです。

 

本当にいつもと顔が違うような・・・

 

暫く眺めていたんですが、

どう見たっていつもの表情じゃなく、

 

どこか悲しそうな・・・、

切ない表情をしていました。

 

急に罪悪感を感じるようになり、

 

ウィッグのケアをしようと

風呂場へ向かいました。

 

丹念にシャンプーとリンスをしてあげて、

汚れてる部分を拭いてあげました。

 

部屋に戻って、

再度練習を始めたんですが、

 

俺の部屋の練習台の向かいには

窓があって、

 

雨戸を閉めない限り、

鏡の役割をします。

 

俺はいつもそこを見て、

自分のいけないところを

探したりしていました。

 

その日も、同じように窓を見て、

自分のおかしいところを

探そうとしたんですが、

 

ふとおかしいことに気がつきました。

 

ウィッグが明らかに笑っていたんです。

嬉しそうにニコニコしていました。

 

一瞬本当に驚いて、

直にウィッグの顔を見ましたが、

いつも通り無表情。

 

きっと、その頃の俺も、

心の底ではウィッグに対する愛着心が

あったんだと思います。

 

そのせいか、

別に怖くはありませんでした。

 

むしろ、今までの自分の扱いの酷さに

罪悪感を感じました。

 

少し下を向きながら、

心の中で謝りました。

 

再び窓を見ても、

今度はいつも通り同じ表情。

 

その日から、人形だって

お客さんなんだと改心し、

 

ウィッグの扱いも改めました。

 

(終)

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