パワハラ上司に下った天罰
最近の事になるが、同期だった奥井さんの部署には”嫌味を言う”変わった上司がいた。※名前は仮名
奥井さんはしょっちゅうありもしないミスを責められ怒鳴られていたが、周りからパワハラだと指摘されると、それ以降は奥井さんにだけ聞こえる程度に嫌がらせをし始めた。
上司は小声で、「早く辞めちまえ」、「目障りなんだよ」、「まだ生きてるのか」などと言ってくる。
とうとう奥井さんは会社を辞め、上司は満足そうに「出来ないヤツがいなくなって仕事が捗るな」と笑っていた。
会社を辞めた後も精神を病んでいた奥井さんは、神社の裏手で自殺してしまった。
しかし、なぜか手には『油揚げ』が握られていた。
もう泣かんでええけん
私は奥井さんの葬儀で、こんなにまで追い込まれていた奥井さんに号泣しながら謝った。
申し訳なくて、無力感から涙しか出なかった自分が恥ずかしかった。
そして火葬場に行く直前、一人のおじいさんを見た。
緑色のハンチング帽を被ったおじいさん。
格好は甚平のような服を着ていた。
おじいさんは少しだけ私に笑いかけて、「いいんだよ」と言った。
おじいさんは火葬場にも来ていた。
待っている間、おじいさんは私の横に座っていたのでお茶を一緒に飲んだ。
奥井さんの葬儀後日に出勤すると、上司はまだ悪口を言っていた。
私は悔しくて言い返そうとしたら、どこからともなく一匹のキツネがふらりと入ってきて、上司の足元を一回りして出て行った。
その日の夜、上司は駅の階段から落ち、首から下が動かす事が出来ない重症を負った。
私がそれを聞いた帰り道、コンビニであの時のおじいさんに会った。
挨拶をするとおじいさんは頷き、「ありがとね。奥井さんは何とか助かった。もう泣かんでええけん」と言うと、おじいさんは私に手を振って去って行った。
上司が亡くなった訳ではないから偶然かも知れないが。
ちなみに、キツネは白狐とかではなく普通の茶色い狐だった。
その狐は上司の足元を一回りした後に、もぐもぐしながら油揚げを食べていた。
「あー旨かった」と言わんばかりに口の周りを舌で舐め、目を細めていた。
あの油揚げ、もしかすると奥井さんから貰ったのかもしれないと考えたら、少しだけ気持ちがやわらいだ。
(終)