寺から盗まれた仏像が戻ってきたワケ
これは、母から聞いた話。
私が生まれるずっと昔の事らしいが、母方のじいちゃんは坊さんだった。
終戦後は坊さんの人数が足りなかったのか、または他の事情があったのかは今となっては分からないが、元々住職をしていた茨城の寺の他に、東京の寺も兼務していた。
寺は無人には出来ないので、茨城の寺にはばあちゃんが、東京の寺にはばあちゃんの母(ひいばあ)が居る事で、じいちゃんは茨城と東京を行ったり来たりしていた。
毎日同じ夢を・・・
不思議な事があったのは東京の寺。
じいちゃんが茨城でお務め中、東京を不在の時に泥棒に入られた。
それも二度。
一度目は仏像が無くなった事に気付いたひいばあが、じいちゃんに連絡した。
しかし、東京に戻るのは次の日になるので、とりあえずひいばあが警察へ。
じいちゃんも東京に戻って暫くは落ち込んだらしいが、盗まれた仏像が返って来るとは限らないし、新しい仏像をそろそろ・・・と考え始めた。
盗まれてからどれくらい日が経っていたか詳しくは知らないが、ある日に「ぜひ見てもらいたい物がある」と古物商が訪ねて来た。
丁寧に包まれた物を差し出されて中を確認すると、なんと盗まれた仏像だった。
拾ったにしては家に直接持ってくるのは変だし、盗んだ本人が返しに来た感じでもない。
じいちゃんは軽いパニックに陥った。
古物商の話だと、実は仏像を引き取ってから同じ夢を見始めたという。
夢の中で、「自分は○○の□□という寺に居た。早く元の居場所に戻してくれ」みたいな事を言われたらしい。
最初は聞いた事も行った事もない寺だし、おかしな夢を見たくらいにしか思わなかったらしいが、毎日同じ場所の同じ寺を繰り返し夢で言われるので、調べてみたら実在する寺があった。
これは何かあると思い、訪ねて来たという。
話を聞いたじいちゃんは大層びっくりしたものの、古物商に感謝し、仏像を以前に増して大事にするようになったそうな。
二度目に盗まれた時は、すぐに戻って来た。
しかも、盗んだ本人が直接返しに来たという。
じいちゃん曰く、その泥棒はかなり憔悴しきった様子だったらしい。
泥棒の話だと、前の古物商と同様に、盗んだ日から毎日同じ夢を見るという。
ただ、元の寺に返す様に言われるだけでなく、説教もされるようで。
盗んだ本人も度々話の途中で支離滅裂になっていたので、とりあえず警察へ通報して御用となった。
後から聞いた話だと、泥棒は暫くの間、時々何かをブツブツ呟いては念仏三昧の日々を送っていたという。
その話を聞いたじいちゃんは、泥棒ながら少し可哀相に思えたとか。
またその話を聞いた私も、どんな説教だったのかと身震いした。
その後、仏像は盗まれる事もなく、今も東京の寺にいらっしゃいます。
(終)