助けを代弁してもらっていたのか?
その昔、まだ若かりし頃に先輩のA医師から聞いた彼の実体験です。
彼の患者さんで、80歳くらいの品の良いおばあちゃんがいたそうです。
名前は『鈴木うめ』さん。(仮名)
彼女は軽い肺炎で内科に入院し、経過も良かったそうです。
しかし7月末のある日を境に、「私は8月2日に死んでしまいますので助けてください。まだまだやりたい事が沢山あるので・・・」と繰り返し言い始めたそうです。
病状は良く、快方に向かっていたので、主治医の彼は、「まあ、ちょっと入院が長引いてきて、軽い認知症の症状が出てきたのかな?」程度に思っていたそうです。
が、なんとなく8月2日は気になっていました。
そして、8月2日。
鈴木さんはその日も何事も無く経過し、8月3日を迎えました。
すると鈴木さんは今度は、「昨日まで御迷惑をお掛けしました。色々と有難う御座いました」と言い始めたそうです。
彼は何のことやら分からなかったそうですが、間もなくして鈴木さんは無事に退院していきました。
それから2週間程した頃、彼の元に病院の事務職員が一通の診断書とカルテを持ってきました。
「A先生、2週間程前に亡くなった患者さんの生命保険の診断書作成をお願いします」と。
彼は、「間違いじゃないの?2週間前には僕の患者は誰も亡くなっていませんよ?誰のだろう?」とカルテを開いたそうです。
カルテには死亡診断書が挟まっていました。
そこには・・・
鈴木うめ 62歳 8月2日22時16分 死亡
直接の死因:子宮体癌
診断した医師:産婦人科B医師の署名
「!?、マジかよ・・・」と、彼は思わず声をあげたそうです。
彼の患者と同姓同名だった62歳の鈴木うめさんは、8月2日に婦人科病棟で亡くなっていたのです。
同姓同名の縁なのか、80歳の鈴木うめさんに「助け」を代弁してもらっていたのでしょうか・・・。
(終)