偶然とは思えない頻度ですれ違う女性

これは今から２０年程前、都内に住んでいた時の話です。

私は、しょっちゅう同じ女性とすれ違っていました。

朝は仕事で決まった道を急いで行くのですが、帰りはその日の気分でいろんな道を通っていました。

その女性は黒髪のショートで、少し色黒、そして主にスカートを履いていた様に思います。

カバンは持っていなかったので散歩かなと思っていました。

初めのうちは、ご近所さんだからよくすれ違うのも当たり前かな、とも思っていました。

その女性に恐怖の念を抱く

ところが、気ままな私が帰り道を「今日はここを曲がって違う道を通ってみよう」と歩いても、「多分ここの道はあそこに繋がっているはずだから初めてだけど通ってみよう」と歩いても、帰る時間が早くなっても遅くなっても、必ずその女性が向こうから歩いて来るのです。

だんだん偶然とは思えない頻度ですれ違う様になりましたが、すれ違ったからといって何かが起こるということもなく、本当に偶然の重なりだったのかもしれません。

ですが、私にとってはもう不気味な存在の人になっていました。

互いにすれ違い様には顔を伏せて、互いの顔をよく見ることも、後ろを振り返ることもなかったのですが、女性は髪型も服装もあまり変わらないので、遠くからでもその人だということがだんだんと分かるようになってきました。

そんなある日、その女性に恐怖の念を抱くようなことがありました。

私は休日で、初めての店に初めての道を通って行くことにしました。

その行き帰りに、その女性とすれ違ったのです。

私は息を呑みました。

「なんで･･･？なんで･･･？」

私はもう外を歩くのさえ恐怖を感じるようになっていました。

女性が歩いて来るのが分かると、後戻りしようとか、別の道を行こうとか考えましたが、磁石で引っ張られる様に真っ直ぐに歩くことしか出来ません。

ですが、この思い込みかもしれない恐怖をどうしたらなくせるだろうと考えていたある日、挨拶をすることを思いつきました。

「こんばんわ」、「よく会いますね」と、私から声を掛けて会話をするようになれば、変な気まずさも恐怖もなくなるはずと。

私は「出会ったら挨拶、出会ったら挨拶･･･」と、毎日呪文のように唱えて道を歩くようにしました。

すると、そう思ってからパタリと女性の姿を見なくなりました。

今度は私の方があちこち歩いて女性を探しましたが、全くと言っていいほど会わないのです。

今でもたまに都内へ遊びに行きますが、あの女性とすれ違うことはありません。

（終）