部屋の横にある使われない鉄製の階段
これは、私が住んでいるアパートでの話。
私の部屋の横には、使われない鉄製の階段があります。
以下、この階段を『トマソン』と呼びます。
住人が2階に上がる階段は入口にあるし、何のためにそこにあるのか未だに分かりません。
最初に話しておきますが、トマソンに行くには子供か、大人なら小柄な人でも横に歩かなければ通れないくらいの通路しかなく、中の通路からは子供でも体を小さくしてやっと通れる隙間があるだけです。
つま先だけの足跡
私は10年近くこのアパートに住んでいますが、一度もそのトマソンを上り下りする音を聞いた事がありません。
そんなトマソンだけれど、住むのに邪魔になるわけでもないし、特に気にもしていませんでした。
ある日の冬、珍しく雪が降りました。
雪国生まれの私はとても懐かしく、また嬉しくもあり、夜にかけて2センチくらい積もった雪と、ベランダからトマソンに積もった雪を携帯で撮りました。
翌朝、もう溶けたかなと雨戸を開けるとまだ積もったままなので、私は携帯片手に雪の上を歩こうと思い、ウキウキして部屋から出て、トマソンを横目で見るやギョッとしました。
昨日の夜には無かった足跡が、トマソンの真ん中あたりの2段にだけ付いているのです。
私はとっさにベランダと出入り口に行き足跡を確認しましたが、トマソンに行く足跡はどこにもありませんでした。
私は不気味に思いながらもその足跡を観察して、ますます驚愕しました。
足跡は下からのものも無いし、上に向かうものも無いのです。
それに、つま先だけの足跡で、踵の部分が無いのです。
後で階段を確認しましたが、足が乗る奥行を測ると26センチあり、外股の踵の無い足跡を推測すると30センチもの足のサイズという事になります。
以来、私はこの無用の階段を、もうトマソンとは呼べなくなりました。
今は見えないけれど、誰かが利用しているかもしれないのですから。
あれから何度か雪が積もるけれど、もう階段に足跡が付く事はありません。
補足
一般的にトマソンとは、不動産に付属し、まるで展示するかのように美しく保存されている無用の長物のことをいう。(Wikipediaより) また、西洋の悪魔には踵が無いというが・・・。
(終)