天井から垂れ下がって揺れていたモノ
これは、私が体験した話です。
その当時に住んでいたのは2階建ての古い木造アパートだったのですが、リフォームしたばかりで内装は綺麗に整っていました。
床も畳からフローリングに張り替えられていてピッカピカに。
間取りは1K、風呂トイレは別で、洗面所も付いていました。
キッチンが4畳、居間が6畳くらいだったでしょうか。
それで家賃は4万円。
都内にしては格安で、個人的にはとても気に入っていました。
その日は会社の飲み会で遅くなり、終電だったのでアパートに帰宅したのは深夜1時近くだったと思います。
アパートの階段を上がって自分の部屋の玄関前まで来た時、少し違和感を覚えました。
今思えば、この時に警戒して部屋に入るのをやめておけば良かったと心底後悔しています。
室内は、玄関を入ってすぐ左手側に台所、右手側に洗面所とトイレ、お風呂場に続く扉があり、正面には台所と居間とを仕切る引き戸がありました。
いつもはこの引き戸は開けっ放しにしており、料理をする時なんかに締め切るようにしていました。
玄関の前まで来た時、ドアの横にある台所のガラス戸越しに、何かが揺れているような気配を感じました。
しかしその時は、反対側の窓から入り込んだ走行車のライトか何かだろうと思い込んでいました。
スーツのポケットから鍵を取り出して、何の気なしに玄関を開けました。
すると、何かが部屋の中で揺れていたのです。
部屋が暗くてよく見えなかったのですが、居間の天井から何か長いものが垂れ下がっていました。
開けっ放しにされた引き戸の手前辺りで…。
ソレが、ゆっくりゆ~っくりと左右にゆらゆらと揺れています。
もちろん、そんなものを部屋に取り付けた覚えはなかったので、その場に立ち尽くしてしまいました。
しばらくすると、暗闇に目がだんだんと慣れてきました。
外の月明かりの助けも借りながら目を凝らしてよく見てみると、ソレはどうやら人間の頭部のようです。
何が何だかわからない状況でしたが、人間が天井から逆さまにぶら下がっていて、白く光る首筋から生えた頭部と長い髪の毛を、体全体を使いながら振り子のようにゆらゆらと左右に揺らしていました。
ただ顔は確認できないので、おそらく自分とは反対の方向を向いているのだろうと。
ふと気づいた時、先ほどよりも揺れがだんだんと激しくなっていました。
最初はゆらゆらだったのが、ゆ~らゆ~らと。
それに伴って、だんだんと振り幅も大きくなっています。
その間も怖くて身動き一つ取れません。
なにより、物音を立ててソレが振り向いてしまうのが、もう恐ろしくて何もできませんでした。
そうしているうちに、揺れはどんどん激しくなっていきました。
頭を右から左へ、ゆっさゆっさと揺しながら、それを追うように長い髪も激しく揺れています。
髪の毛が床に擦れる音も微かに聞こえ出し、木造の天井もギィギィと音を立て始めました。
頭を振る速度はさらに激しさを増し、振り幅も遂には頭部を天井に打ちつける程となり、ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!と物凄い速度で打ち鳴らし始めました。
長い髪は振り乱されてメチャクチャに。
髪の毛が擦れる音もハッキリと聞こえるようになり、天井もギィッ!ギィッ!と大きくしなる音を響かせています。
もう本当にヤバいと思って目を瞑った瞬間、バタンッ!と音がして心臓が一瞬止まったかのようでした。
ハッとして振り返ると、お隣さんが部屋から出てきており、「静かにしてくれませんか?」と一言。
いつの間にか音はやんでおり、ソレも居なくなっていました。
その日はさすがに部屋に入る勇気はなく、近くのネカフェに泊まりました。
明るくなってから恐る恐るアパートへ帰ると、部屋はいつも通り。
ただ、ソレがぶら下がっていたであろう天井の下には、長い髪の毛が何十本も散らばっていました。
結局、部屋から必要なものだけを持ち出してホテル暮らしを数週間した後、早々に引っ越しをしました。
(終)