鍾馗さまに化けていた罰当たりな生き物

鍾馗さまの掛け軸

 

これは、俺が小学校低学年の頃の話。

 

お盆の頃、うちの両親に用事があり、俺はじいちゃんの家にしばらく預けられることになった。

 

じいちゃんの家はド田舎。

 

周りは山ばかりで、遊ぶ所が全く無いような辺境地帯にあり、じいちゃんはそんな辺境のド田舎でばあちゃんと一緒に暮らしていた。

 

最初は両親と離れて暮らすことに不安があったけれど、それもじきに慣れて、慣れると田舎生活は案外楽しかった。

 

ただ、怖いこともあった。

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懲らしめてやらんといかん

夜になると、本当に周りが真っ暗になる。

 

これが怖かった。

 

俺は夜になると絶対に一人になりたくなくて、いつもじいちゃんとばあちゃんの近くにいるようにしていた。

 

じいちゃんもばあちゃんもそんな事情を察してくれていたようで、俺は一人きりの状況になることはなかった。

 

風呂はじいちゃんと一緒に入り、寝る時はじいちゃんとばあちゃんが俺を真ん中にして布団を並べて一緒に寝てくれた。

 

ある晩のこと、俺はいつものようにじいちゃんとばあちゃんと一緒に寝ていた。

 

すると、バサッと布団が捲れる音がして、俺は目を覚ました。

 

目を横にやると、じいちゃんが起き上がり、そのままソロソロと部屋を出て行ってしまった。

 

(トイレかぁ・・・)

 

じいちゃんの足音はトイレに向かっているのは分かった。

 

蛍光灯の薄明かりの中、さて寝ようかと布団を被ろうとした時、床の間に飾ってあった鍾馗さまの掛け軸が目に入った。

 

鍾馗(しょうき)

主に中国の民間伝承に伝わる道教系の神。日本では、疱瘡除けや学業成就に効があるとされ、端午の節句に絵や人形を奉納したりする。(Wikipediaより引用)

 

ギョロリとした鍾馗さまの大きな目が動き、俺を睨みつけた。

 

その目の迫力に思わず身体が固まると、今度は掛け軸から毛むくじゃらの太い腕が俺の頭まで伸びてきて、手に持っていた刀の鞘で俺の頭をポカリと叩いた。

 

こうなると俺も限界だったようで、「うわああ!」と大声を出して布団から飛び起きてしまった。

 

「なんだ!?どうした!?」

 

バタバタと音がして、じいちゃんが大急ぎで部屋に戻って来きてくれた。

 

ばあちゃんも「何事か?」と大慌てで飛び起きて、部屋の明かりをつけてくれた。

 

俺はじいちゃんとばあちゃんに、「床の間の鍾馗さまに頭をポカリと頭を叩かれた」と事情を説明した。

 

すると、じいちゃんは「ああ、分かった。ちょっと待ってろ」と言って、床の間に飾ってある掛け軸を床の間から外してくれた。

 

俺は怖くて仕方なかったので、じいちゃんが床の間の掛け軸を片付けてくれている間、ずっとばあちゃんに抱っこをしてもらい、絶対に床の間を見ないようにしていた。

 

片付けが終わった後、俺はじいちゃんとばあちゃんと同じ布団で一緒に寝ることにした。

 

怖かったけれど眠気には勝てなかったのか、俺はすぐに眠ってしまった。

 

次の日、じいちゃんはえらく怒っていた。

 

「タカシ(仮名)の大事な頭を叩くなんて許せん!懲らしめてやらんといかん」

 

じいちゃんはそう言って、俺を庭に連れ出した。

 

庭にはばあちゃんがいて、小さな七輪に火をくべていた。

 

「タカシ、そこに座り」

 

じいちゃんは俺が縁側に座るのを見ると、家に戻っていった。

 

しばらくして戻って来たじいちゃんは、手にフライパンとクルクルと巻かれた掛け軸を持っていた。

 

「タカシ、よう見とき。じいちゃんが懲らしめてやるからな」

 

じいちゃんは庭に出て七輪の上にフライパンを置くと、フライパンの中に刻んだ鷹の爪を放り込んだ。

 

燻され鷹の爪からモクモクと黒い煙が立ち上ると、じいちゃんは手に持っていた掛け軸を立ち上る煙の中に入れた。

 

「コホン・・・コホン・・・」

 

掛け軸から小さな音がした。

 

なんだか咳のような音だった。

 

立ち上る煙が勢いを増し、猛々とした黒い煙が立ち上るのに合わせて、「ゴホッゴホッ!」と咳のような音も勢いを増していく。

 

すると突然、丸めた掛け軸がプルプルと上下に小刻みに震えて、掛け軸の穴から細長い灰色の毛をした生き物が出てきた。

 

それがポトリとフライパンの上に落ちると、ビョンと飛び上がっては大慌てでどこかに行ってしまった。

 

「タカシ、今の見たか?」

 

じいちゃんが縁側に座る俺を見て、そう言った。

 

俺は首を何度も縦に振った。

 

「イタチがイタズラしに来たんよ。もう大丈夫。これに懲りて二度と来んよ」

 

じいちゃんは立ち上がり、ヒュルヒュルと掛け軸を開いた。

 

そこには、二匹の鶴と赤い日輪があった。

 

「鍾馗さまに化けようなんて罰当たりなイタチやな。だからこんな目に遭うんだ」

 

じいちゃんはそう言って、ばあちゃんと一緒に笑っていた。

 

俺はというと、目の前で起きた出来事があまりに不思議だったのでポカーンとすることしか出来なかった。

 

イイズナ|参考

食肉目イタチ科イタチ属に属する哺乳類。日本では北海道、青森県、岩手県、秋田県に分布する。(Wikipediaより引用)

 

(終)

 

 

イヅナ、イイヅナ

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