助けてくれた恩人ってまさか
これは、幽霊画の掛け軸にまつわる体験話。
その掛け軸は10年ほど前に辞めた会社の倉庫に飾っていた。
退職してから5年ほど経った頃のこと、横断歩道で信号待ちをしていたら車が自分に突っ込んで来る事故に遭った。
「車がこっちに来る!ヤバイ!」と思っても動けなかったが、次の瞬間、誰かが俺の腕を車の進行方向から外れるように引っ張ってくれた。
おかげで、背後の建物と車のサンドイッチにならずに済んだ。
車体の側面に運悪く当たった足の骨にヒビが入っただけ。
不思議なくらい痛みもほとんどなく、むしろガソリンの匂いに気づいた自分が、逆に車の運転手を助けに行く状況だった。
救急車と警察を呼んで一息ついた時、俺を助けてくれた人にお礼を言おうと辺りを探した。
だが、野次馬らしき人しかいない。
一緒に車の運転手の救出を手伝ってくれた人にも聞いてみた。
すると、「あなたの腕を引っ張っる薄い黄色の着物を着た女の子がいた」と言う。
その人も探してくれたがその場は見つからなく、警察の人にも話すと「事故の詳しい状況を聞くために探します」と言ってくれたが、その恩人は結局見つからなかった。
それからさらに数年が経った頃、とうの昔に辞めた会社の社長から電話があった。
要件は、「あの掛け軸が脱走した」とのこと。
どうも俺が会社を辞めた後から、この掛け軸が倉庫から時々なくなることがあったらしい。
気がつくと掛け軸が消えて、気がつくと元の場所に戻っているのだとか。
社長も最初は泥棒が盗んだと思ったそうだが、倉庫にあった他の金目の物は一切被害がないことで、不思議に思いながらも警察を呼んだこともあると言う。
ただ今回は、そこに掛け軸その物はあるが、“中身がいない”ように社長は感じたらしく、お世話になっている神主さんに相談しに行った。
そこで、「どうやら中身が俺のところに行っている可能性がある」と言われ、突然連絡したそうで。
また社長は、掛け軸が消えた日を記録しており、俺はその日付も伝えられた。
すると、その複数ある日の一日に、前述の事故に遭遇した日があった。
事故当時は考えもしなかったが、「もしかしたらあの時に俺を助けてくれた恩人って、あの掛け軸の幽霊なんじゃ?」と、社長から話を聞いて思った。
なぜなら、あの掛け軸の幽霊画は、珍しいことに白色ではなく薄い黄色の着物を着ていたから。
(終)
正月に相応しい話だ