意識不明の部下に付き添っていたら

病院の機器

 

会社の部下のことなので躊躇いましたが、

あまりにも不可解なことなのでお伝えします。

 

私は工場で働いているのですが、

 

先日、その工場で大きな事故があり、

部下が巻き込まれました。

 

詳しくは書けませんが、

右腕の肩から先が切断され、

 

右足も繋がってはいるものの、

回復は不可能と言うことで、

 

切断を余儀なくされるほどの

大きな事故でした。

 

彼は意識不明になり、

 

救急車で病院に運び込まれた時は、

かなりヤバイ状態でした。

 

処置のおかげで一命は取り留めたものの、

依然として意識は戻りませんでした。

 

私は責任者なので、

 

その夜は彼に付き添って、

病院で一夜を明かすことになりました。

 

が、まだ面会謝絶ということもあり、

部屋の外で待機し、

 

上層部との連絡に追われていた私も

相当の疲労からか、

 

いつしか部屋の外のベンチで

寝てしまいました。

 

夜中に人の声がして、

目が覚めました。

 

時計の針は3時を指していたことを

はっきりと覚えています。

 

その声は、

 

昏睡状態の部下がいる部屋から

聞こえる気がしたので、

 

ドア越しに覗いてみると、

 

なんと彼は起き上がって、

ベッドに腰掛けているのです。

 

そこで、すぐに部屋に入って

言葉をかけようと思ったのですが、

 

なにか様子が変なのです。

 

彼はベッドに腰掛けたまま、

 

誰もいない空間に向かって、

しきりに何か話しているのです。

 

携帯電話かと思いましたが、

 

そんなものは持っていませんでしたし、

あるはずもありませんでした。

 

内容が聞き取り難かったので、

そっとドアを開けて聞くと、

 

いよいよその異常な状況が

はっきりとしてきました。

 

「はい・・・

ええ、そうです。

 

ここから先を引き裂けば

いいわけですか・・・

 

ええ・・・はい、

だいぶ生えてきました。

 

腕の上がまだ。

 

足も2ヶ月で生えてくるんですか、

ありがとうございます」

 

このようなことを彼は身動きひとつせず、

 

部屋の上の方を見ながら

ずっと喋り続けていたのです。

 

普通なら意識が戻ったと

喜ぶところなのですが、

 

そのあまりの異常な状況に、

逆に何も出来なくなってしまいました。

 

そして次の瞬間、

 

「はい・・・ええ、

ちょっと待ってください。

 

今誰か見てる奴がいますが」

 

と彼は言ったのです。

 

背筋が凍りました。

 

まさか私のことを言ってるのか。

 

普段なら、私のことを「奴」だなんて

絶対に言うはずがありません。

 

しかも、それを言ってる間も、

彼は全く動かないのです。

 

私は恐る恐る、

彼の名前を呼んでみました。

 

すると、突然彼が喋るのを止め、

沈黙が流れたかと思うといきなり、

 

「おい!!!」

 

と、そのままの向きで言ったのです。

 

私はその場から逃げていました。

 

怖くて気がどうにかなりそうでしたが、

とりあえず宿直の看護婦のところへ行き、

 

今までのことを全部話しましたが、

当然請け合ってもらえず・・・

 

とにかく意識が戻ったのなら病室に行こう、

ということになりました。

 

病室に戻ると、

彼はベッドの中で寝込んでいました。

 

看護婦が一通りチェックくしたあと、

私に一言、

 

「意識、戻ってませんよ」

 

そんなバカな、

さっきまで起きて喋っていたんだ。

 

と言っても全く信じてもらえません。

 

現在、彼は意識も取り戻し、

退院していますが、

 

あの夜、そんなことを言っていたことは

覚えていないということです。

 

(終)

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