カメラにはしっかりと映っていた

路地

 

某TV局に務めていた父が死んだ。

 

遺品の整理中に父の日記を読んでいて、不可解な記述を見つけた。

 

この話は、当時まだ子供だった私も聞いていたと思う。

 

今になって、あの時の父の焦った顔と共に思い出した。

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女性は忽然と消えた

当時、ロケで某県に出張っていた父。

 

よくある旅番組で、父は当時ディレクターだった。

 

有名な蕎麦屋へ行くにあたって、誰かが風情のある路地を見つけたので、そこを通って目的地の蕎麦屋へ行くという事になった。

 

路地は3~4人が横に並べる程度の幅で、進行役のタレントさんが歩く画を撮ってから、路地だけの画を撮る段階になった時の事。

 

カメラを回していると、短い髪に赤いロングスカートの女性が曲がり角から出て来た。

 

一旦、カメラを止めようとしたら、カメラマンが言った。

 

「あそこ、曲がり角ありましたっけ?」

 

路地は分岐路のない直線である事を思い出して、場の全員が首を傾げていると、誰かが声を上げた。

 

再び路地を見ると、女性は忽然と消えていた。

 

幸いにもカメラを回し続けていたので、女性の消えた瞬間も映っているはず。

 

映像を確認すると、こちらに向かって普通に歩いていた女性が、突然フッと上に引き寄せられる様に消える様子が映っていた。

 

その直前には、女性の頭上から人の形にも見えるものが、女性を両手で抱え上げようとしている様な映像もあった。

 

空を見上げたが、青空に少し雲が出ているだけで何も見当たらない。

 

女性の出て来た曲がり角も確認したが、そこはブロック塀だった。

 

地元の人にも色々と話を聞いたが、その路地にまつわる話も、そういった出来事に関する話も一切知らないという事だった。

 

番組自体は放送されたが、この映像は放送されなかった。

 

心霊特番に回される事になっていたが、結局は放送されずじまいでお蔵入りになったと後日の日記に書かれていた。

 

また日記には、「地元の人達が嘘を吐いていた」とも書いてあった。

 

父は隠し事を見抜くのが上手かったので、何か感じたのかも知れない。

 

(終)

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