線路沿いにある我が家に立ち寄る者
私は生まれた時から線路沿いにある家に住んでいる。
そのせいかどうか、夜中に『お客さん』が来ることがあり、部屋の明かりを消して寝ていると、家鳴りとは明らかに違う音を聞いたりもする。
床を歩き回る足音だったり、小枝を折るようなパキポキいう音や、井戸の底みたいな深いところへ落ちて反響する水の音など。
音以外には、心霊現象ではお約束の金縛りや、ベッドの足元に白いぼんやりした人影が見えたり。
夜中に目を覚ますと、部屋の天井に生首が浮いていたこともあった。
でも不思議とそういうのは怖くなく、本当に“ただ立ち寄っただけ”で、恨みつらみや脅しといった負の気配も感じないし、背筋が凍ったりもしない。
だからこちらも、「ああ、また来たな」と思うだけ。
部屋には寺で貰った御札が貼ってあるし、うちには神棚も仏壇もあって先祖の加護もあるから、悪霊の類はうちには絶対に入って来れないと思っている。
死んだ爺ちゃんと婆ちゃんが馬鹿のつくお人好しだったから、きっと誰彼かまわず近くへ来た霊に、「まぁ上がってお茶でも飲んで行きなさい」なんて声をかけていたのだろう。
ある雨の日の夕方のこと、駅前のスーパーへ買物に行こうと家を出た。
線路沿いの道を歩いていたら急に寒気がして、風邪でもひいたかなと思った。
横断歩道で立ち止まった時には、目の前を突っ切った車に思いきり水を跳ねられ、ズボンが半分くらいびしょ濡れに。
車はすぐ先の信号で止まったので、寒気を忘れて頭にきた私は、一言文句を言ってやろうと追いかけて中を覗き込んだ。
すると、大学生くらいの兄ちゃん数人が、恐怖した形相でこちらを見ていた。
窓越しに叫び声が聞こえてくる。
手前にいる兄ちゃんは、ぶるぶる首を振って体ごと反対の窓際へ逃げている。
私も驚いてしまい、何が何だかわからないうちに車は走り去った。
服は汚れたし気分は悪いしで、買物はやめてそのまま帰宅した。
ただ、玄関を通ると急に寒気が消え、頭もすっきり爽快に。
車の兄ちゃんたちは何を見たのか?
それに、一体何が憑いていたのだろう、私に。
(終)