その引き出しが開くのは1月15日の一日だけ
この話の出来事は現在も進行形で、もう何代も続いている。
ただ、因果だとか禍々しい話はない。
俺の田舎には、年代物の『桐箪笥』がある。
もう何代も前からそこにある、というかなりのレア物。
戦災にも遭わず、ただひたすら家人の衣装を守ってきた普通の桐箪笥だ。
同時に、本当に大事なもの、故人の形見などもそこには仕舞ってある。
しかし、その引き出しは普段は全く開かない。
鍵が付いているわけでもない。
16ある引き出しの、その引き出しだけが全く開かないのだ。
親戚の話では、『サクヤサマ』という方がその箪笥にいると言う。
そして、その引き出しが開くのは、毎年1月15日の一日だけ。
家人はその日を待って、本当に大事なものや形見をそこに入れる。
カビやくすみが付くことはなく、今もその中にはそういった物が入っている。
俺が赤ん坊の時の足形も、昨年亡くなった叔母の形見もそこに入っている。
そういったわけで、毎年1月15日は頑として開かない引き出しが音もなく開く貴重な日なのだ。
来年もそこに納める物があれば、たぶん帰省するだろう。
※コノハナサクヤヒメ(参考)
コノハナサクヤヒメという神様は、竹取物語のかぐや姫のモデルにもなったといわれる、日本神話に出てくる国津神という神様です。(神仏ネットより)
(終)