親父から貰った古いカメラ
「やるよ」
そう言って親父が俺に渡したのは、
古いカメラだった。
「これにはな、
人の死に顔が写るんだよ」
「は?全然面白くねーよ」
親父は黙ったままだった。
数ヵ月後、
親父は死んだ。
急性の心臓発作だった。
それから数ヶ月が経ち、
怖いもの好きの彼女に
カメラのことを話してみた。
「そのカメラの話、本当なの?」
「撮ってみるか?」
「そうしよっか」
おい待て、
冗談で言ったんだぞ。
だが、後には引けない・・・。
カシャ
「なんだよ、コレ?」
俺の顔はいつもと変わらなかったが、
彼女の顔が血塗れだった。
「なんかイタズラしたんでしょ!?」
もちろんしていない。
それに、
写真を撮ろうと言ったのは
そっちじゃないか。
取り乱したまま、
彼女は帰ってしまった。
俺が逆の立場だったら・・・
そう思うと責める気にはなれない。
数日後、
彼女が交通事故で死んだ。
聞いた話だが、
顔は血塗れだったそうだ。
「苦しかっただろうな」
写真を見せて以来、
ずっと怯えていたらしい。
あの写真を撮らなければ、
もっと楽しく
長く生きられたんじゃないか、
と考えてしまう。
俺は彼女の分も
強く生きようと思った。
(終)
解説
写真を撮った時、
俺の顔はいつもと変わらないが・・・。
つまり、この「俺」も
近いうちに死ぬことになる。