嫌いな人間が死んだ
ある日、
高校の同級生の女の子が
病気で亡くなり、
葬儀が行われるから
出席しないか?
という連絡があった。
俺は地元の大学に進学したので
出席するのは簡単なのだが、
その女の子とは特に親しくも
なかったので悩んでいた。
しかし、
高校の同級生で同じ大学に進学した
俺の友人(男、以下A)が、
「ぜひ出席したい」
と言うので、
それなら俺もと思い、
Aに車を出してもらい、
二人で会場に向かった。
葬儀に出席した俺たちは、
お焼香が済むと、
出席していた同級生たちと
軽く話したりしていたが、
Aが俺にコソっと
「もう帰りたい」
と言ってきたので、
すぐに車に戻った。
俺はあんなに葬儀に出たい
と言っていたAが、
すぐに帰りたいというのが
気になり、
どうしたのかと聞いてみた。
Aは眉間にしわを寄せ、
じっと何かを深く考えるような
顔をした後、
ようやく口を開いた。
「亡くなった女の子に、
いつも容姿のことで陰口や
イヤミを言われていた。
高校時代、
ずっと苦しい思いをしていた。
死ぬのをずっと願っていた。
死んだと聞いた時、
本当に嬉しかった。
葬儀に出て、
死に顔を見てやろうと思った。
その女の子と一緒に
陰口を言っていた、
同級生の泣き顔も
見たかった。
葬儀を荒らすつもりはないが、
内心は意気揚々と
帰ってやろうと思っていた。
それなのに、
いざ葬儀に出席してみると、
思ったほど面白くない。
むしろつまらない。
女の子の死に顔を見ても、
ふーんとしか思えなかった。
同級生たちの泣き顔を見ても、
同じだった。
この日を楽しみにしていたのに、
裏切られた。
せっかく香典も礼服も
用意したのに。
今日の葬儀はつまらない映画と
一緒だった。
金と時間を無駄にして、
自由に声を出すことも
動くことも出来ず、
窮屈な思いをしただけ。
期待外れにもほどがある」
などと、
Aはうんざりした様子で
淡々と語っていた。
帰る道中、
運転しながらAはこの日のために
買ったというCDを
(全て、人生最高!や、
生きてることに感謝!
という歌詞のものばかり)
色々と流していたが、
「どうも気分じゃない、
もったいないことをした」
と言っていた。
俺の家に到着し、
礼を言って車から降りようと
した時にAはボソっと、
「嫌いな人間が死んでも
喜びなんてない。
もちろん悲しみもない。
無だ、無」
と言ってきた。
(終)
怖い話じゃない…よいことだ…