噛みつく生首が住むアパート 2/2
その夜、私がたくさんのよだれの付いた
布団を被り眠っていると、
またもいくつかの気配が感じます。
猫だと思いますが、
私は熱帯夜のような蒸し暑さの中で、
(まだ夏ではなかったです)
汗を垂らしながらも布団の中で
震えていました。
しかし、私は逆に耐えきれず、
暗闇の中、布団からいきなり手を出し、
その黒い塊の方へ、
ブン!と布団を持って払いました。
気のせいだと確かめたかったのです。
しかし、私の手の甲は、
ある冷たい物にぶつかり、
それは勢いよく壁にぶつかり
畳に転がったようでした。
私は手に感じた感触に、
背筋が凍りました。
昔、若い頃に喧嘩をして殴った頬の
感触と同じだったからです。
黒い塊がころころと転がって止まりました。
そのとき不意に、
それが人間の頭部であると理解出来ました。
その瞬間、「ここどこ!!」
突然それが、
低いドスの聞いた声で叫びました。
その叫び声を聞いて、
私は気を失ったようです。
目覚めると、
たくさんの頭部は消えていました。
私は汗びっしょりだったので、
体を拭くためにシャツを脱ぎました。
そして、驚愕しました。
・・・全身が歯型だらけだったのです。
自分で寝ぼけてやったのではありません。
その証拠に、
私の頬に血が出そうなほどの
歯型が付いていました。
しかもその歯型は、
大きいのから小さな物まで様々でした。
私は悲鳴をあげて出ていこうとしましたが、
髭を剃るのは忘れませんでした。
おばさんおじさんは現れませんが、
私はドンドン追い込まれていきました。
実際この頃の私は、
今思っても行動がおかしいです。
その最たる理由は、
相変わらずその部屋で
寝ていたことでしょうか。
私の体重は10キロ以上減り、
傍目から気味悪がられるほど
青白くなっていました。
そのせいか仕事もまったく見つからず、
疲れ果てて帰るという毎日でした。
歯型は一日消えることなく全身に及び、
面接官の一人から「その歯型は?」と、
質問されましたが、
さして上手い言い訳も見つからず、
そのまま「噛まれているようですね」
と言ったところ苦笑されました。
彼女にやられたとでも思ったのでしょうね。
しかし、私の限界は近くなっていました。
幻が見えるようになり、歯型を隠すため
全身に包帯を巻いたりもしました。
そのくせ表を出歩き、
見知らぬ人に「おはようございます!」などと
大声で言ったりしてました。
気が狂う直前だったようです。
その夜、おじさんから
差し入れと書いた紙と、
栄養ドリンク剤が部屋に置いてました。
私は疲れていたので、
遠慮なくゴクゴク飲みました。
そして私はいつもより深い眠りに
おちたようです。
そのおかげか、夜中に目が覚めたとき、
すっきり頭が冴えてました。
そして、私の体に取り憑いている
十数個の黒い塊が私を噛んでいる事を、
異常だとはっきり気づいたのです。
怖がってる場合じゃないと。
まぁそうですよね。
そう思っている私は冷静なつもりでしたが、
ピークに達していたのでしょう。
ムクっと起きあがると、暗い部屋の中で
黒い塊がズズズっと畳を転がるように進み、
台所に消えていったのを感じました。
私は「待てぇ!!!」と、
今までに無いような声をあげると、
台所にいきました。
そして、それらの影が、
なぜかトイレに逃げたような気がして、
トイレに駆け込みました。
トイレは和式でしたが、
中は真っ暗です。
電気をつけようとしましたが点かず、
私は荷物箱をひっくり返し、
懐中電灯を手にしました。
そして笑いながら、
トイレの中にライトを向けました。
闇に照らし出される汚物。
目を凝らすと、
ウジがうごめいているのが分かります。
そしてその中に、
うつろに見上げるたくさんの腐った生首や、
白骨した頭部が私を見上げていました。
私の糞尿にまみれて・・・
「ぎゃぁああああ」
私は悲鳴をあげ、
なぜか帽子を手に取ると、
下着姿のまま
ドアを蹴破るように飛び出しました。
「ぎゃ!!」
ドアの向こうに誰かがいたようでした。
振り向くと、女装したおじさんが
マスターキーとノコギリを持って倒れていました。
「いきなり開けるな!!」
そう怒鳴られ私は無償に腹が立ち、
近くの石をドンドン投げ付けました。
おじさんは悲鳴をあげながら、
うずくまりました。
私はいつしか、投げている石が
人の頭であることに気づきました。
それらがおじさんに、
ドンドン噛み付いています。
おじさんは肉を食いちぎられているのか、
悲鳴をあげ続けてました。
私は怖くなり、
アパートを飛び出しました。
あれ以来、おじさんとは
連絡を取っていませんし、
連絡も来ません。
あの頭部が、幽霊であってほしい
と思っています。
そうじゃないと私は、
あのアパートにいる間、
ずっと毎日、糞尿を・・・
あれから13年が経ち、
今では遠い記憶になりましたが、
私の首元に残る一つの歯型は、
しばらく消えませんでした。
私が殴った生首が噛んだ、
痕だったのかもしれません。
(終)
文章の狂ってる感がなかなかの怖さ