母が夜中に打ち付けていたもの
俺が高校1年の時の話だ。
この頃にはもう両親の関係は冷え切っていて、そろそろ離婚かな?という感じの時期だった。
俺はと言えば、グレる気にもなれず、引き篭り気味の生活を送っていた。
授業が終わると、真っ直ぐ家に帰って自室に直行。
飯も自室で一人で食っていた。
そんなある日、とんでもない光景を見てしまった。
母が真夜中に、庭の立ち木に何かを打ち付けている。
直感的に、「親父の藁人形?」と思ったが、その場では確認しなかった。
動揺してしまって、こそこそと逃げ帰るように自室に戻った。
「見たくないものを見てしまったな・・・」というのが、この時の心境を一番良く表していると思う。
その時は確認出来なかったけれど、動揺が治まるにつれ、気になって仕方なくなって来る。
「あれは親父の人形なのか?」
そして、母が留守の間を見計らって確認する事にした。
結論から言えば、親父の藁人形はあった。
正確には、親父の藁人形もあった、なのだが・・・。
いや、出るは出るは。
親父の他にも、俺の担任、親戚の叔母ちゃん、近所のオバはん、同級生の母親。
ダンボール箱に半分くらいはあった。
釘と名前を書いた札が刺さっている藁人形が。
「何やってんだよカアちゃん・・・」
そう呟いたかどうかは記憶にないが、そう思っただけで実際には言葉になっていなかったのかも知れない。
頭の中が真っ白になってしまって、ぼーっとしていた。
この時もやっぱり、見付からないように片付けると、こそこそ自室に逃げ帰った。
しばらくは呆然としていたが、少し時間が経つと何故だか分からないが笑いが込み上げてきた。
「へへへっ」から始まった笑いだったが、いつのまにか大爆笑していた。
笑いが止まらなかった。
もしも藁人形の中に俺の名前があったとしたら、この時に俺は笑い死にしていただろう。
(終)