学校で流行っていた『魔界へ行く遊び』とは?
僕が小学6年生の時に実際にあった話です。
朝学校に行くと、渡り廊下の隅で男子が数人集まって何か小声で喋っていました。
遠くから見てもなんだか重い雰囲気が伝わってくるので、(何話してるのかな?)と少し興味はあったのですが、朝だから眠くて、その時はその集団に加わりませんでした。
そして、その日の授業が終わり、さあ帰ろうと思っていると、朝の男子数人が僕のところに来て、「面白い遊びがあるんだけど、ちょっとやってみないか?」と言うのです。
僕は朝のことを思い出して興味が湧いたので、その遊びに付き合ってみることにしました。
その遊びというのは、彼らが言うには『魔界へ行く遊び』らしいのです。
絶対に真似しないように
『魔界』という言葉にヤバイと感じた臆病な僕は、「やっぱいいや、やめとく」と断ろうとしたのですが、どうやら遊びというのは名ばかりで、これは一種の『呪い』のようなものでした。
なんでも、一度この話を誰かに聴かされた人は、最後までこの遊びをやり遂げないと大変なことになるらしいのです。
さすがの僕も、(ふざけんなよ!なに僕に押し付けてんだよ!)と心の中で怒鳴ったのですが、どうやら呪いを解くには、やり遂げた後に別の誰かに同じことをやらせなければならないらしく、彼らも仕方なくやっているのだと言うのです。
友達思いの僕はそれならば仕方がないかと、その遊びに参加してあげることにしました。
そうして中川君(仮名)が僕に話してくれたことは以下の通りです。
これから君は魔界に行くことになる。
魔界では絶対に今から言う通りに行動しなくてはならない。
まず、君が目を覚ますと目の前にドアが見える。
他の所は見ようとせず真っ直ぐドアに向かい、ドアの取っ手を右手で握って開ける。
閉める時は左手に持ち替えて閉める。
すると、目の前に薄暗い砂漠が広がっている。
君はそこを真っ直ぐ前に歩いていく。
絶対に後ろを振り向いてはならない。
しばらく歩くと足元にスコップが落ちているので、それを持ってさらに前へ歩いていく。
絶対に走ってはならない。
少しすると、足元の砂が異様に盛り上がっている場所に着く。
そこで君はスコップを使って穴を掘る。
掘った砂は決して自分の後ろに飛ばさないように注意しなければならない。
30センチくらい掘ると、女の人の綺麗な左手が出てくるので、それを絶対に地面に落とさないように大事に持つ。
さらに前へ歩いていくと、いつの間にか元の世界に戻っている。
大体こんな感じの内容でした。
話が終わった後、中川君はなにやら怪しげな呪文を唱えて両手を重ね、僕にゆっくり深呼吸を3回するように言いました。
そして僕が言われた通りに深呼吸をし終わった瞬間、中川君は重ねた両手のひらで僕の胸、心臓の辺りをドン!と思い切り強く押しました。
僕は一瞬心臓が止まったと思うくらいビックリして、本当に意識が飛びそうになりました。
しかし、目を開けると魔界に立っていた・・・なんてことはなく、ん?あれ?と戸惑っていると、中川君たちは笑いながら「この遊びはただの冗談だよ」と僕に言いました。
人を驚かすにしては手の込みすぎた悪い冗談だと、その時の僕は思いました。
それから1ヵ月後くらいだったと思います。
朝のホームルームで担任の先生が深刻な顔をしながら、「最近子供たちの間で危険な遊びが流行っていて、数日前にその遊びで男の子が一人、心臓発作で亡くなりました」と言ったのです。
先生は続けて「みんなは絶対に真似しないように」と注意を促しましたが、その遊びは1ヵ月前のあの時に僕が体験したものとほとんど同じものでした。
もしかしたら僕も命を落としていたかも知れない、と思うとゾッとしました。
その日の帰り道、中川君が暗い顔をして僕に話しかけてきました。
なんでも、中川君はあの遊びは冗談だと言ったが、実は彼の兄が怪しい本を拾ったのは本当だと言うのです。
その本は気味が悪いので兄がどこかに捨ててきてしまったと言っていましたが、その本の最後の方には、『魔界での約束事を完璧に記憶できた人だけが魔界に行くことができる』と書いてあったそうです。
そして中川君は、「もしかしたら亡くなった子は頭が良くて、約束事を完璧に記憶していたから本当に呪文が効いたのかもしれない」と言い出しました。
しかし僕は、「完璧に記憶していたのなら、ちゃんとこっちの世界に戻ってくるはずだよね?」と言いましたが、中川君は「覚えたことを忘れるくらい怖い目に遭ったんだろう」と言い返してきました。
(終)