もし目覚めるのが数秒遅れていたら
これは母から聞いた話。
母がまだ独身でOLをやっていた頃、マンションで一人暮らしをしていたそう。
そして、隣の部屋にこれまた独身の男が住んでいたそうだが、この男が何だか不気味だったという。
会った時に挨拶するかしないかという程度の関係だったが、男はろくに返事もせずに母をジロジロと眺め回すことが多かったらしい。
そんなある日の深夜、母は急に目を覚ました。
色々考えるとほんのり怖い
それまでぐっすり夢の中だったのに、スイッチが切り替わったようにパッ!と意識がハッキリしたそうだ。
そして、脈絡なく「・・・玄関の鍵、掛けたっけ?」と気になって仕方なくなった。
玄関を見に行くと、やっぱり鍵が掛かっていない。
「あー不用心だったなー」なんて思いながら鍵を掛けたのと同時に、ガチャッ!とドアノブが回された。
辛うじて鍵を掛ける方が早くてドアは開かなかったが、怯えながらドアのスコープを覗いてみると、隣の部屋の男が立っていた。
男はもう一回ドアノブを回した後、結局そのまま去っていったとか。
「自分の部屋と間違えたんだろう」と納得する事にした母。
それから数日後に男は引っ越していった。
間もなくして母も引っ越すことになり、部屋の大掃除をする事になった。
そこでベランダ側の窓を拭こうとした時、ふと窓の右上辺りが曇っているのを見付けた。
よく見てみると、それは『手の跡』だった。
それも外側から付けられている。
その窓は、件の男が住んでいた部屋側だった。
「隣のベランダから部屋を覗き込もうとしたら、ちょうどあんな角度で手の跡が付くと思うよ」
そう俺に話しながら母は笑った。
母は毎朝スッと起きられない人なのに、その時はよくすぐ起きられたなぁとか、目覚めるのが数秒遅れていたらどうなっていたんだろうとか、色々考えるとほんのり怖い。
(終)
ほんのり?!いや、結構怖くね?