キジバトに情が移ってしまった俺 1/2
小学校の時の話だから、少しうろ覚えだが赤裸々に語る。
家の庭に大きなビワの木が植わっているのだが、そこによく鳥などがやって来る。
野良猫も沢山いて、よく鳥を狙っているのを見たことがある。
小学校4年生くらいの時だった。
どこからともなく1羽のキジバトが飛んできた。
俺はそこに来る鳥などを見るのが好きだったから、キジバトがいるとずっと見ていたのだが、見ていて気付いたのは、そのキジバトが少しお馬鹿さんだった。
車が来ても道路でぼーっとしていたり、なぜか飛ばないでテクテクと歩いたり、猫がいても逆に近付くし・・・。
人間と同じで、鳥にも知的障害みたいなものがあるのかなぁ、なんて思った。
というより、よくこんなに大きくなるまで生き延びているなこのハト・・・、と思った。
そして放っておけなくなって、ずっと見ていた。
次の日もその次の日もずっと家の庭周辺をうろちょろとしていて、行動がイチイチハラハラさせるもんだから、心配になって餌をあげてみた。
そうしたら喜んで食べるし、しかも触っても逃げない。
俺は、そのキジバトに情が移ってしまった。
それで名前を付けたのだが、『ハトマン』。
動物は全部がオスだと思っていた小学校時代なので、ハトマンと呼び始めた。
ヒナを育てていたのは・・・
餌をあげたら本当に懐いて、家の庭にずっといるようになった。
でも交通量も結構多いし、野良猫も沢山いるしで凄く心配だった。
学校が終わったら急いで家に帰って来て、ハトマンの様子を見ていた。
普通の餌ではなく、図鑑で見たバードケーキ(ラードなどを入れた高カロリーの餌)を作って食べさせたり、とにかくハトマンが大好きだった。
ほとんど毎日、ハトマンの様子を見るのに明け暮れていた。
ペットを飼ったことがなかったし、結構夢中だった。
でも見れば見るほど頭の悪い鳥で、何度も車に轢かれそうになった。
そんなある日に学校から帰って来ると、道端に物凄い量の羽が散らかっていた。
キジバトの羽だったから、嫌な予感がして辺りを探してみた。
その日は見つけられなかったが、次の日にハトマンがいて、よく見たら右足が無かった。
羽もボロボロで、きっと猫に襲われたところを逃げたのだろう、と思った。
足が無くなっていたのはどうしてか分からないが、近所の池で釣りをしている人の釣り糸に引っかかってしまったのではないかと思う。
片足を失って余計に可哀想だったから、その次の日からは前よりもべったりと見るようになった。
それからしばらく経った頃、俺はビックリした。
ハトマンはメスだったらしく、つがいになっていた。
※つがい
二つ組み合わせて一組となるもの。対(つい)。特に、雌と雄。
オスはまともそうな奴で、毛並みも良くて立派なキジバトだった。
鳴き声もなんともたくましく、カッコイイ奴だった。
でも2羽とも馬鹿だったのは、野良猫がウロウロしているビワの木に巣をかけてしまったことだ。
それでも俺は凄く嬉しくなり、その巣でヒナが生まれるのを今か今かと待っていた。
双眼鏡を買ってきて、毎日のように巣の観察をしていた。
そしてしばらくした頃、巣から顔を出した。
ヒナが2羽。
もっと沢山生まれるのだと思っていたが、2羽だった。
ハトマンのお腹の横からキィーキィーと鳴いていた。
生まれたてはあまり可愛くないなぁ、なんて思いながらも、結構嬉しくてずっと見ていた。
正直ここまで猫に襲われなかったのは奇跡だと思う。
このまま襲われることなく育て切るのだろうと漠然と思っていた。
でもそう上手くいくはずもなくて、やはり近所の真っ白のデカイ猫に襲われた。
可愛い首輪をしているのに獰猛(どうもう)な奴だ。
そしてヒナを1羽、持って行ってしまった。
ハトマンもその夫も一生懸命に威嚇したが、やはりダメだった。
ハトマンは足を引きずりながら、枝に登って猫を威嚇していた。
片足無いし馬鹿なのに。
しかもハトマンはずっと巣を守っていて、何も食べていないし、多分苦しかったんだと思う。
猫を追い払おうとしてよろけ、木の根っこまでドサッと落ちてしまった。
その隙に猫がヒナを1羽持って行ったのだ。
俺は急いで外に出たのだが、間に合わなかった。
根っこのところに落ちているハトマンの様子を見ると、興奮状態で俺のことを追い払おうとした。
俺は泣きながら布団の中に潜った。
そして次の日からはさらに最悪なことに、オスがいなくなってしまった。
どこかに逃げたのか、それともどこかで死んだのかは分からないが、次の日からさっぱり餌を持って来なくなってしまった。
ハトマンもそれが分かったらしく、残った1羽のヒナのために餌を取りに出かけた。
残されたヒナのことが俺はいつも不安で、猫が来ないようにペットボトルを置いたり、見かけたら大声で追い払ったり、家の反対側に餌を置いて気を逸らしてみたりと色々やった。
そうしてしばらく経った頃、事件が起こった。
ここからが本題だ。