大雨の中、最終列車の乗務をしていた時に

線路

 

私は列車の運転士をしています。

 

これは、仕事中に実際に体験した話です。

 

その日は大雨で、私は最終列車の乗務をするために始発駅に列車を停車させていました。

 

やがて出発時刻となりましたが、信号が青に変わった瞬間、その信号が消灯してしまいました。

 

「おいおい、このタイミングで球切れかよ」と思いながら、無線で指令に連絡しました。

 

こういった場合は『赤信号とみなす』という決まりなので、しばらく始発駅で足止めになりました。

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もしあのまま列車を走らせていたら

やがて指令からは、指導通信式(赤信号で列車を出発させる方法)で列車を出す準備をすると言われました。

 

ですが、その時点で車内に居た二人のお客さんが「家族に迎えに来てもらう」と告げに来られたので、その方法は取らずに復旧まで待つことになりました。

 

そして1時間後、信号は復旧し、回送として終点を目指し運転を再開しました。

 

トラブルの原因は、信号ケーブルを動物に噛まれたからでした。

 

おそらく狸と思われます。

 

しばらく走り、峠の急勾配を上り切ったところで、駅の灯りが見えてきたのと同時にホームに人影が見えました。

 

「まさか最終列車に乗ろうとしていたお客さんだろうか?」と思いましたが、その駅から最終列車に乗る人なんて未だ見たことがありません。

 

だんだんと列車がホームに近づくと、その人影は線路に身を投げました。

 

私は言葉も出ず、とっさに非常ブレーキをかけ、ただひたすら列車が止まるのを願いました。

 

そして列車は、ホームを少しはみ出したところで停止しました。

 

「完全に轢いてしまった・・・」と思いましたが、衝撃が全くありませんでした。

 

急いで台車回りを確認していると、3匹の動物(おそらく狸)が線路と台車との隙間から出てきて走り去って行きました。

 

その姿を目で追っていると、列車のヘッドライトに照らされた進行方向の線路が少々歪んでいるのが見えました。

 

「ん?」と思い近づいてみると、線路のバラスト(砂利)と枕木が流出していました。

 

大雨の影響で、山からの水に耐え切れなかったのだろうと思います。

 

もしあのまま列車を走らせていたら、確実に脱線していたことでしょう。

 

もしかすると、『狸がなんとかして列車を止めようとしてくれたんじゃないか』と私は思っています。

 

ちなみに、人影はモワッとしていて、背格好は人間という感じでした。

 

(終)

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One Response to “大雨の中、最終列車の乗務をしていた時に”

  1. 匿名 より:

    急勾配を走る列車とかあるんだ!

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