偶然と不思議が絡み合って家を手に入れた話
オカルトではないが、ちょっと不思議な話。
俺は昔から好きな神社があり、そこの桜や銀杏を見にバイクでよく行っていた。
そんなある日、その神社の近くで中古住宅の内覧会をやっていた。
今でもその時にどうして家なんかを見ようと思ったのか分からないが、“何故かその家に入りたい”と強く思った。
実際に家を見学するのは初めてで、緊張もした。
こうするしかないんですわ
その家の中には一人の爺さんが居て、「この家は売れてるんやけど、まあ見てやってください」と言ってくれたので安心して見せてもらった。
建物は古めだったが、立派な邸宅という感じで庭も広い。
庭には大きな桜が植えてあり、俺はふと「良いなあ」と思った。
桜を褒めると爺さんは、「今度住む人には桜を切って引き渡さなきゃアカンのや・・・」と寂しそうに呟き、何かをじっと考え込んでしまった。
そして帰り際、爺さんが俺の連絡先を知りたいというので、教えて立ち去った。
それから数週間後、その爺さんから電話が掛かってきて、「あの家をあんたに住んで欲しい」と言うのだ。
しかも、売値が相場より信じられないほど安い。
だが当時の俺のステータスでは、まだまだ到底及ばない代物だったにもかかわらず、何故かトントン拍子で話が進み、偶然と不思議が絡み合って俺は家を手に入れた。
爺さんはあの家の売主だった。
そして、爺さんはこんな事も言っていた。
「家と桜があんたに住んで欲しいって言うんですわ。こうするしかないんですわ」と。
当初、自分には不釣合いな家だと思っていたが、あれから5年が経ち、自分でもビックリするぐらい昇進し、会社も大きくなり、それなりに身の丈に合うようになってきた。
これは後で知った事だが、あの家に植えられていた大きな桜は、俺が昔から好きな神社から分けてもらった物だったらしい。
そして、また今年も桜の蕾が綻(ほころ)んできた。
※桜の蕾が綻ぶ
春が来て、桜の花が咲くこと。
俺はあれからずっと、『神社の桜と家の桜が俺と家を結び付けてくれた』と思って過ごしている。
(終)