誰もいない部屋から聞こえてくる声
うちの家の二階には部屋が三つある。
そのうち二つが俺と姉の部屋で、あと一つがパソコンやテレビなどがある父の書斎。
間取りは俺の部屋が姉の部屋の向かいにあり、姉の部屋と書斎が隣り合う形になっている。
一年ほど前からになるが、書斎でテレビを見たりパソコンでネットをしている時に、隣の姉の部屋から誰かがブツブツと言っている声が聞こえる。
最初に聞いた時は姉が電話でもしているのだろう、と思っていた。
何日かして、またいつものように声がし始めた。
また姉ちゃん電話で喋ってるのか、うるさいなぁと思ったが、放っておいた。
一時間くらい過ぎた頃、俺はトイレへ行くために一階へ下りていった。
そして用を足した後、ふと居間の方を見てみると、姉がテレビを見ている。
「あれ?姉ちゃん今、上にいんかった?」
そう聞くと、「はぁ?あたし今帰ってきたとこやん」と言われた。
それなら一時間前から聞こえていたあの声は?と思った瞬間、背筋が寒くなった。
よくよく考えてみると、あの声が聞こえている時、姉が部屋にいたことは一度もない。
姉にこのことを言おうかと思ったが、かなり怖がりなので結局は言いだせないまま、しばらくしてホームステイで海外へ行ってしまった。
ただ、それ以降もブツブツと喋っている声は聞こえる。
そして先日、勇気を振り絞って何を言っているのか聞くために、書斎と姉の部屋を隔てている壁に耳をそっと当ててみた。
すると、ブツブツと言っていたのが突然叫び声に変わり、次には壁をドゴン!ドゴン!と殴っているような音が聞こえてきた。
腰を抜かしてガクガクと震えながらその場にへたり込んでしまった俺は、頭の中は恐怖で真っ白だった。
音を聞きつけた父が来てくれて助け起こしてもらい、慌てて一階に避難した。
数分後、何も聞こえなくなったので、恐々と姉の部屋を覗いてみた。
特に変わったところはなく、壁を殴った跡もない。
ふと上を見ると、天井に文字らしきものが書いてある。
そこには『タロ/じ』とあった。
なんだこれ?と思ったが、気持ち悪いことには変わりないので、すぐ部屋を後にし、近所のお坊さんに来てもらって事情を説明した。
そしてお坊さんに「これ、なんて書いてあるんですか?」と聞いてみたところ、「あぁ、これはな、怨て書いてあるんや」と教えてくれた。
確かに、文字を繋げたら『怨』という字に見える。
慌てた俺は、「え!?大丈夫なんですか?」と矢継ぎ早に聞くと、「大丈夫、大丈夫。ちゃんとお祓いもしたし、ヨウコちゃん(姉・仮名)の部屋に出た人は、元々この土地に執着していた人で、たまたまヨウコちゃんの部屋に居座っちゃっただけ。君の家にももう出ないし、ヨウコちゃんにも影響はないから安心していいよ」と言ってくれた。
お坊さん曰く、我が家は悪いものが溜まりやすいらしい。
お祓い以降、ブツブツ言う声は聞こえなくなり、またオーストラリアにいる姉にも何の影響もないようだ。
天井の文字も、いつの間にか消えていた。
でも一つだけ、気になっていることがある。
夜中にずっと階段を上り下りする気配があることだ。
もちろん不安なのだが、本当にヤバいことになったら、またお坊さんに相談してみることにする。
(終)