昔に大阪で流れた奇妙な少年の噂

ハーケンクロイツ

 

私が昔に住んでいた大阪のS市では、

奇妙な噂が流れていました。

 

以下がその内容ですが、

 

何せ10年も前の話なので、

記憶が定かではありません。

 

1、

夕方から夜にかけて、

 

ナチスの腕章をつけた少年が

街を徘徊している。

 

2、

その少年と目が合うと、

警棒を持って追いかけられる。

 

3、

片足が義足であるというのに

凄いスピードで、

 

自転車で全力疾走しても、

追いつかれそうになった。

 

4、

いつも3匹~5匹くらいの

犬を連れている。

 

その噂の共通点は確か、

こんな感じだったと思います。

 

当時は学校の怪談ブームで

口裂け女などが流行っていたので、

 

恐らくその類の物だろうと、

私は内心バカにしていたのですが、

 

この噂が一気に現実味を帯びたことが

一度だけありました。

 

記憶力のよくない私でも、

この出来事は鮮明に覚えています。

 

その日は中学一年生の9月頃で、

残暑でとても蒸し暑い夕方でした。

 

私は部活が終わってから、

教室に忘れ物を取りに行ったか何かで、

 

いつも一緒に帰るグループとは別れ、

一人で下校していました。

 

下校途中、

 

私たちの間で大東の坂道と呼ばれていた、

暗く細長い坂道に差しかかった時です。

 

向こうから歩いて来る、

異様に細長い人影が見えました。

 

「あっ!やばい」

 

私は瞬間的にそう思いました。

 

何故なら、

その人影は5匹の犬を連れているのです。

 

しかし前述の通り、

 

私には怪談の類をバカにしている

ところがあり、

 

また少年時代特有の好奇心から、

歩みを止めず進んでいきました。

 

さすがに直視する勇気は無かったので、

俯きながら歩いていきました。

 

そして坂も中腹くらいに差しかかった時です。

 

突然、

前方から変な音が聞こえました。

 

その音は、「サバンッ、サヴァンサヴァンッ」

とでも表現すればよいのか。

 

とにかく奇妙な音でした。

 

突然そんな音がするものですから、

私はついつい首をあげてしまいました。

 

そして、見てしまったのです。

 

その腕章の少年を。

 

その少年は、

歳のころは僕と同じくらいに見えましたが、

 

異様に顔色が青白く、

頬はこけ、

 

露出している腕は白く、

枝のように細いのです。

 

しかしその腕にはしっかりと、

 

あのナチスドイツのハーケンクロイツの

腕章が巻かれていました。

 

ハーケンクロイツの腕章

(ハーケンクロイツの腕章)

 

また、

噂どおり足は義足の様でした。

 

そして何より印象的だったのは、

少年の鋭く異様な光を帯びた眼光でした。

 

そこで私は「しまった!」と思いました。

 

少年の鋭く光る目を見てしまったからです。

 

その瞬間、

彼の目が一瞬白眼になったように見え、

 

頭上にあげた左手には、

警棒が握られていました。

 

私は振り返ると、

全力で大東の坂道を駆け上りました。

 

この坂道は全長40メートルほどの

急な坂道で、

 

腕章と目が合った位置から坂を上りきるまで

20メートルほどありました。

 

その20メートルほどを全力で走っている間、

 

後ろから「サバンッ、サバンッ、サバンッ」

という音が聞こえてきます。

 

それはどうやら腕章の連れている犬が、

吼えている鳴き声のようでした。

 

(今思うとそれが犬だったのかどうか、

定かではありません)

 

その証拠に音は幾つも重なって発せられ、

徐々に近づいてくるのがわかります。

 

私は当時陸上部に所属し、

 

学年でも3本の指に入るくらいの

俊足だったのですが、

 

音は近づいてくるばかりです。

 

冷汗まみれで半泣きになりながら、

急な坂道をとにかく全力で走りました。

 

わずか20メートルほどの坂道が、

とても長く感じられました。

 

そして、音が本当に間近、

 

つい足元から聞こえてくるくらいのところで、

なんとか坂を登りきったのです。

 

大東の坂道を登りきったすぐ横には

小さな商店があって、

 

私は半泣きになりながら、

そこへ駆け込みました。

 

その店には、

いつも寝ている役立たずの番犬がいました。

 

しかし私が店に入った瞬間、

 

「キャンキャンキャン」

 

と激しく吼えまくっているのが

鮮明に聞こえてきました。

 

店主のおばちゃんは僕の様子を見ると、

 

「会ってもうたんやな・・・」

 

と、ため息まじりに呟くと、

こう続けました。

 

「もう大丈夫や。

 

アレは動物を見ると、

しばらく来えへんから。

 

兄ちゃん運動やってるやろ?

 

(頷く)

 

あぁ・・・やっぱり。

 

運動やってる子はよく狙われるんや。

 

まあ、安心し。

 

一度会ったら明日以降は

もう大丈夫やから。

 

ただ、今夜だけは気をつけや。

 

部屋の窓は絶対に閉めとくんやで。

 

もしなんかペットを飼ってるんなら、

今夜だけ外に出しときや。

 

アレは動物がおると何もしてこうへんから。

 

それと帰るんなら今のうちやで。

さ、はよし」

 

こう言うと、

 

私を外に連れ出し、

坂道の下まで一緒に来てくれました。

 

そして、

 

「なるべく急いで帰りよ」

 

と付け加えると帰っていきました。

 

私はまた半泣きになりながら、

大急ぎで家に帰りました。

 

そして親が止めるのも聞かず、

 

普段座敷犬として飼っている犬のトシヒコを、

家の外に繋いでおきました。

 

そして、その晩。

 

私は部屋の戸締りをいつもより厳重にと、

雨戸を閉めている時です。

 

すぐ近くで例の「サヴァンッ」

の音が聞こえたのです。

 

そしてトシヒコが必死に吼えている

鳴き声も聞こえました。

 

その夜はほとんど寝付けず、

夜通し電気はつけっぱなしでした。

 

以上が腕章の少年にまつわる、

私の体験した話です。

 

(終)

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