行ったことも見たことも無いのに・・・
去年の6月頃だった。
どうしても具合が悪くて仕事を休み、家で寝ていた。
その時、県外に住んでいる弟に会いに行った夢を見た。
なぜか「ここに弟が住んでいる」と確信しているアパートがあった。
ちなみに、弟の住んでいる場所へは、これまでに一度も行ったことは無い。
知らない場所なのに・・・
窓側に川、反対側は道路があって小山がある。
道路を少し行くとトンネルがある場所に住んでいた。
夢の中で弟と「最近どう?」などと世間話をしていると、弟の様子がおかしくなってきた。
突然、自分の腕や足を食べ始めたのだ。
外見も餓鬼のような感じに変わっていく。
ビックリしている間に弟は頭部だけになり、最後に自分の頭部を舌でペロンと包み込んで食べ、骨だけがポトポトと床に山積みになった。
その骨を見て茫然としていると、後ろから鬼っぽい者が弟の残った骨を食べようと手を伸ばした。
怖かったのと骨を取られまいと思って、落ちていた風呂敷に骨を全部包んで背負って逃げた。
アパートを出て、小山に沿った道路を走り、ずっと追いかけてくる鬼から逃げた。
道路を走ってトンネルに入ると、そこは鍾乳洞のようになっていて、どんどん地下に走って逃げた。
地下を走り続け、やっと光が見えた。
「逃げ切れる!」
そう思ったところで目が覚めた。
夢のことを母に話し、弟にも電話で見た場面を色々と説明すると、「住んでいるアパートと同じ風景と構造だ」と言った。
俺はそこへは行ったことも見たことも無いのに・・・。
弟が住んでいるそのアパートは、怪奇現象が絶えないと聞いた事はあったが、これまであまり気にした事はなかった。
翌週に引っ越しが決まり、その最後の夜に「押し入れがガタガタ音を立てていた」とも聞いた。
引っ越してからは特に何にも無いという。
俺自身この夢を見た夜、寝ている隣でジーッと何かに見られている様な、妙な視線を感じていた。
これらは一体何だったのか・・・。
(終)