釣り場をいくら変えても出没する変な猫
これは、3年ほど前に友人から聞いた不可解な話。
友人の亜美のお父さんは釣りが好きで、毎年5月には釣り仲間3人と一緒に一週間ぐらいの旅行をしていた。※名前は仮名
その釣り仲間は全員がリタイア組でかなりお年を召しているため、渓流の一番奥までは行けず、ある程度自動車が入る場所に泊まりながら釣りをしていたのだそうだ。
少し時を遡り、それより1年前の釣り旅行の初日、亜美のお父さんが変った猫を見つけた。
山の中で民家が近くに見つからないのに少し太った野良猫で、魚をやっても無視するが、人間にはわりと馴れ馴れしく、触れないが近くまでは寄ってくる。
この猫が、釣り場を変えても変えても出没するのだ。
この時点で少し変に思ったという。
旅行の最終日は、その時に釣った魚や山菜などを旅館で調理してもらうのが常だったので、いつもの旅館に泊まった。
そして旅館の大将を見た瞬間、『あ、あの猫はこの人だ!』と、理由もなく確信したという。
なんでも雰囲気がそっくりだったとか。
その大将と一緒に亜美のお父さんは記念写真を撮っていた。
「それがこれなの」
そう言って、亜美は一枚の写真を俺に見せた。
それには、渓流の前でポーズを取る、知らない男性が一人で写っていた。
さらに亜美は「この猫、可愛いでしょ」と言って、その男性を指差す。
その瞬間、何を言っているのかわからず少しゾッとしたのだが、じゃあ亜美のお父さんはどこだろう?、そう思って亜美の顔を見たら涙を浮かべている。
俺はどうしたらいいのか対応に困り、適当に相槌を打って会話を終了させ、その日は逃げるように家に帰ってしまった。
それから3年後の現在、俺と亜美との関係は友人から恋人になり付き合っているのだが、詳しいことは未だに聞けない。
そもそも猫の話すら、俺には全く意味がわからない。
そしてこの件と関係があるのかどうかわからないが、亜美のお父さんは3年ほど前に亡くなられた。
(終)