物件の立ち合いに連れてこられた猫

猫

 

これは、事故物件にまつわる話。

 

「あそこのマンションで、面白いっていうか興味深い話を聞いてきたよ」

 

知り合いが、そう話しかけてきた。

 

彼女は不動産関係に従事しており、私と友人との共通の知り合いでもある。

 

「うちじゃあの物件は扱ってないから業界筋の話なんだけどね。あの子の上の部屋に問い合わせがあったらしいの」

 

「あの子って、あの?」

 

「そうそう。少し前に飛び降りがあった部屋ね。担当は早いとこあの部屋を処分したかったみたいで気合いを入れてたんだって」

 

そんな会話をしながら、不動産屋ってのも因果な商売だなぁと思う私。

 

「問い合わせてきたのは私たちと同年代の女性だったらしいんだけど。この人、現地確認の時に猫を連れてきたんだってさ」

 

しかしそれを見た担当が、「すいません。ここではペットは飼えないんです」と断ったところ、「あ、気にしないで下さい。私の猫じゃなくて友達の猫なんです。家を見る時には立ち会ってもらってるんです」と言ったそうで。

 

奇妙に思ったらしいけれど、それならいいか…と考えて、そのまま部屋に行ったという。

 

知り合いの話は続く。

 

「それでね、部屋の鍵を開けて中へ招き入れた途端、フーッ!!と唸り声が上がったの。そう、猫よ。腕の中に抱かれたまま、全身の毛を逆立てて唸っていたんだって。そうしたらその女性、それ以上は部屋の中に入らないまま、こう言ったって」

 

「ごめんなさい。私やっぱりこの部屋はダメです」と。

 

結局、女性はそのまま帰ってしまい、この商談はなかったことに。

 

「その猫に何か見えてたのかなぁ?」

 

私は、そう尋ねてみた。

 

「さぁ?猫と話ができる人じゃないとわからないわねぇ。でもその時の担当も言ってたけど、その猫、欲しいよね。こっそり連れて行けるから、影のアドバイザーとしては凄く優秀だと思うよ」

 

商売人の目になって、彼女はそう言っていた。

 

(終)

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