山で迷ってしまったその先で
これは先日、九州へ出張した時に体験した話。
仕事を済ませた後、そのまま帰るのも面白くないと思い、近くの山でハイキングでもしていこうと考え、“名前も知らない山”に登った。
すんなりと山頂まで到達し、弁当を食べ、帰路を歩いていると、さっき歩いてきた所と似た景色が見えてきた。
この時点で薄々迷ったかな?とは思ったが、ネガティブ思考も良くないと思い、そのまま進むことに。
しかし、またさっきと同じ光景に遭遇する。
完全に迷ったようだった。
どうしようか…。
弁当も食べ尽くし、食料は何もない。
このまま帰れないのか?と少し不安気味で歩いていると、目の前を小さなタヌキが歩いて行った。
俺はとっさに、そのタヌキに付いて行った。
今でも何故そうしたのかはわからないが、あの時に付いて行かなかったらどうなっていたのだろうとも思う。
そしてタヌキが止まった場所に、ぽつんと『蕎麦屋』があった。
なんでこんな所に蕎麦屋が?
本当に不思議な状況なのだが、その時の俺は「飯が食える」という思いと、「人に会える」という期待で頭が回らなかった。
蕎麦屋に入ると、蕎麦屋特有のつゆの匂いが漂っていた。
店の中では、鉢巻をしたおじさんが蕎麦を作っていた。
でも直感的に、「ここの蕎麦は食べれない」と感じて、蕎麦屋を出た。
ただ、店から出た直後の記憶がなかった。
次の瞬間、俺は山に登る前にいたホテルに。
地元の人に聞いても、「そんな山も蕎麦屋も知らない」と言われる始末。
あの出来事は何だったのか、今でも疑問に思っている。
(終)