山男で豪胆なじいちゃんの不思議体験談

山道

 

これは最近、小学生の男の子から聞いた話。

 

彼の祖父は山登りが趣味で、毎年あちこちに出かけているという。

 

この体験をしたのはおそらく白馬だったかなと言うが、場所は定かではない。

 

夕方、山小屋を目指して靄(もや)の中を歩いていると、目の前に『人の形をした白くて大きなもの』が道を塞ぐように立っていた。

 

山男で豪胆なじいちゃんは「邪魔だ!」と、半透明でふるふる揺れているそれの中を突っ切ろうとした。

 

ところが、それは半透明のくせに壁のように堅く、じいちゃんはドン!とぶつかって跳ね返されてしまった。

 

仕方ないので、それを迂回して先に進み、振り返るとそれは消えていた。

 

そして歩き出そうとしてふと気付くと、右の肩の辺りに『知らない男の首』があった。

 

それは真っ白い顔で、無表情に前を見ていた。

 

さっきの奴が付いて来たかと、じいちゃんは気にせず山小屋に向かった。

 

山小屋に着くと、首は消えた。

 

翌日、山を下りていると、また同じ場所に同じ白い半透明の巨人がいた。

 

今度は黙って通り過ぎようとするが、後ろから「おい!」と呼ばれたような気がして振り向くと、それは普通の人間の大きさなっており、透明でもなくなっていた。

 

そしてそこには、一人の男が首を吊った姿で浮いていたそう。

 

じいちゃんはそれを見て「面白れぇー」と、大笑いしたという。

 

そんな豪胆なじいちゃんは大の虫嫌いで、ベンジョコオロギが自分に向かってピョンと飛び跳ねただけで、近所の人が駆け付けて来るような悲鳴を上げるらしい。

 

山登りが趣味なのに大の虫嫌いとは、これまた面白いじいちゃんである。

 

(終)

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