見えない女に取り憑かれた大学生の男
これは、同級生の話。
学生時代、彼は頻繁に引っ越しを繰り返していた。
よほど居を移るのが好きなのだなと思っていたが、どうもそうではなかったらしい。
引っ越しの話題になった時、彼はおかしなことを言った。
「大学生になって一人暮らしを始めてからなんだけどね、俺って見えない女に取り憑かれたみたいなんだ」
慣れって凄いもので
初めは、夜に寝ているといきなり足首をギュッと強く掴まれたのだという。
驚いて目を覚ますと「みーつけた」と女の声がして、同時に掴む感触が消えた。
眠いのでそのまま寝てしまったが、朝起きて確認すると足首に青痣が出来ていたらしい。
/ ここから彼の語り /
それからなんだよね、部屋に何かが居着いたの。
動いていると、目に見えないけど柔らかい何かにぶつかることがある。
寝ていると、足や髪を掴まれて起こされるなんてしょっちゅうだ。
風呂に入っていると、誰かが同じ浴室内で「ウフフフ」と笑いかけてきやがる。
狭いユニットバスだから、俺以外は誰も入っていないはずなのによ。
しかし慣れって凄いもので、気にならなくなって熟睡できるようになったんだ。
まぁ、相手の姿が見えなかったっていうのもあるんだろうけど。
でもそのまま放っておいたら何かどんどんとパワーアップしちゃってさ。
夜にドアというドアが勝手に開いたり、テレビや電灯がひとりでに点いたり、水道が出っ放しになったりするもんだから、ほとほと困ってしまったんだ。
お祓いも何度か受けてみたけど、アレはアレだね、効果はないね。
いや、本物に祓ってもらえば効くのかもしれないけど、そんなツテないし。
だからもう諦めて、サッサと逃げることにした。
そう、引っ越し。
新しい場所に引っ越すと、しばらくの間は大過なくいけるんだ。
でも残念ながら、今のところ保って半年なんだけどね。
大体それくらい経つと、また「みーつけた」ってギュッと掴んでくる。
まぁ、俺自身も引っ越しは嫌いじゃないから何とかなってるけどさ。
/ 彼の語りここまで /
「人外には凄くモテるんだね」
感心した私がそう感想を述べると、なぜか彼は押し黙り、それからしばらく話相手になってはくれなかった。
ちなみに彼は大学を卒業後、遠くの県で就職したのだが、見えない女もそこまでは追って来ていないということだった。
(終)
「やっと…ハァハァ…追いついた…ハァ、ハァ……」