最後に会いに来てくれたんだと思ったが
これは、祖母が亡くなった時の話。
我が家は分家で、本家とは馴染みが薄い。
本家の祖母は内孫だけ可愛がり、外孫の私や兄の事はあまり気に留めていなかった。
実際、祖母が晩年にボケた時は、話かけても認識するのは内孫の従姉だけで、私の事は「どちらさま?」という感じだった。
微妙な表情の祖母
そんな祖母のお通夜の日の事。
私は離れにある従姉の部屋で仮眠をとらせてもらっていたが、誰かに揺り動かされた。
見ると、亡くなったはずの祖母がいた。
それも、生前の健常だった頃の姿で。
祖母は数秒ポカンとした顔で私を見ていたが、こちらがポカンだ。
そして祖母は少し黙った後、「・・・おばあちゃん、そろそろ行くから」と言った。
私は久しぶりに口をきいたなぁと思いつつ、「そこまで送って行くよ」と言って、玄関を出て先祖代々の墓場に続く途中の道まで見送った。
途中で祖母が「ここまででいいから」と言ったので、そこでサヨナラをした。
そのまま従姉の部屋に戻り、二度寝をしようとしたが眠れず、まんじりともしなかった。
※まんじりともせず
少しも眠らないさま、一睡もしないでいるさまなどを指す表現。
私は、「おばあちゃん、私の事はたいして可愛くなかった感じだったけど、最後に会いに来てくれたんだなぁ」と、少し感じ入っていた。
違和感はあったが・・・。
それを父に言うと、喜んでこう言った。
「おふくろ、最後はお前のこと覚えてもいなかったのになぁ」
しかし私は、祖母が私の顔を見た時の、あの微妙な表情が忘れられなくてずっと疑問を感じていた。
それから数ヶ月して、ようやく合点がいった。
私が仮眠をとっていた部屋は、祖母の部屋の隣りで、『従姉の部屋』だった。
従姉はあの日、通夜に来た客の世話で一晩中起きていて、私が眠いと言った時に「じゃあ、私の部屋で寝といで」と言ってくれたから寝ていた。
祖母は、最愛の孫の従姉に最後のお別れしようとして揺り起こしたら、どうでもいい孫が寝ていたから驚いただろうな。
(終)