窓辺に立っている若い女の幽霊事件

家

 

これは、とある場所で起きた『幽霊事件』の真相である。

 

私が行きつけだった居酒屋の親父の真鍋氏(仮名)は、長野県出身の初老の男性だった。

 

「うちは代々官吏の家柄で・・・」とか言っていたが、真鍋氏の父親の代にはすでに郷里のなけなしの田畑は手放してしまい、もっぱら出稼ぎで生計を立てていたということだった。

 

※官吏(かんり)|参考

旧制度下での役人。特に、国務にたずさわり国家に対して忠実・無定量の勤務をする公法上の義務を負う者。

 

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別に隠したわけではない

居酒屋は真鍋氏とその細君(妻)だけで切り回している小さな店で、木造二階建ての一階が酒場、二階が夫婦の寝起きする部屋だった。

 

二階の窓は店の入口がある表通りの裏手にあったので、あまり人目に付くことはなかったのだが、「この二階の窓に幽霊が出る」という噂が立ったことがある。

 

若い女の幽霊が窓辺に立っているのを見た、という者が何人か現れたのだが、私はあまり本気にしてはいなかった。

 

ある日、いつものように店で飲んでいた時、酒の勢いもあって、私は真鍋氏に幽霊話について思いきって水を向けて(気を引いて)みた。

 

だが、その時に真鍋氏が真っ青になり、「実は・・・」と話し始めたところによると・・・。

 

ここから先はあまり期待されても困るのだが、実は夫婦二人きりで住んでいるとばかり思っていたその店の二階には、夫婦の娘も一緒に住んでおり、この娘が知恵遅れのうえ、足が悪くて表には出せない状態なのだということだった。

 

つまり真鍋氏夫婦は、精薄の娘さんを居酒屋の二階に軟禁状態にしていたのであり、それがたまたま人目に触れたのが幽霊事件の真相というわけである。

 

真鍋氏は「別に隠したわけではないのですが・・・」と恐縮していたが、近所でも知っている人は知っていたらしい。

 

言われてみると、二階に人の気配がするような気がしてきた。

 

気の毒な話でもあり、私もそれ以上こだわるつもりはなかったが、二階にひっそりと住んでいる娘のイメージがどうにも生理的に受け付けられず、その後は以前ほどその店に通わなくなった。

 

10年ほど前、真鍋氏が亡くなったのを期に店は閉められたが、一度も会ったことのない娘さんがどうなったのかは聞いていない。

 

おそらく母親と一緒に郷里に帰ったのだろうと思う。

 

(終)

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