無人期間のその小屋に忘れ物が多いワケ

小屋

 

これは、とある山小屋の話。

 

夏の山開きの直前に店開きする小屋があり、今年も案内状が送られてきた。

 

年間わずか4ヶ月ほどしか営業せず、残り8ヶ月は無人だ。

 

夏でもスキーが可能という、かなりの山奥にあり、小屋の周辺に雪が絶える事はほとんどなかった。

 

ただ最近は、温暖化の影響で雪はだいぶ少なくなったようだが。

 

随分と前のこと、一度だけ店開きを手伝った事がある。

 

「まずね、出てってもらわなきゃあ。残ってると、やっぱり気持ち悪いからね」

 

いくつかある部屋を回りながら、それぞれの部屋に声をかけるご主人。

 

彼が何をしているのか、見当はつく。

 

無人の間の『小屋守』に、お引取りを願っているのだろう。

 

窓を開け、布団を出し、避難小屋代わりに使ったパーティが残したガラクタやら忘れ物やらを箱詰めする。

 

ちなみに、大学の山岳部の名前入りの忘れ物が多いという。

 

それについて、「見たことないけど、たぶんね」と前置きして、ご主人が話してくれた。

 

「マナーが悪いと脅かされるんじゃないかな。で、大慌てで逃げていくから忘れ物が多くなるんだよ、きっと」

 

確かに、大学の山岳部のような物品管理にやかましいグループで、ラジウスやグランドシートの大事な装備をいくつか置き忘れるなど、普通は考えられない。

 

「忘れ物の多い学校は、大概が二度と来ないんだ」

 

そう言うご主人の言葉は、これまでの経験に基づいている。

 

「ご主人さんは脅かされないんですか?」

 

そう訊ねる俺に、「やられてるのかもしれないけど、俺、霊感ないから」と笑って答えた。

 

その日の夕食は大皿料理だった。

 

飯もおかずも山盛りにされ、いくつもの小皿がテーブルに置かれた。

 

霊感がないというご主人には、今年の小屋守が何人か分からないらしい。

 

「分かればちゃんと茶碗に盛るんだけどさ。君、分からない?」

 

いきなり聞かれたが、俺もよく分からない。

 

無人の間に淀んだ空気が、まだ小屋のあちこちに残っているような、そんな感じしかしない。

 

翌朝、小屋を囲む万年雪には、山を下る足跡があった。

 

(終)

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